Music30 ページ31
朦朧とする意識の中、美風の透き通った声が俺を呼ぶ。
でも身体がめちゃくちゃ重くて、やっぱり思うように動かない。
「み、かぜ………?」
「声帯も体も、まだ思い通りには動かない、か……
美風の声には、様々な感情が垣間見えた。
怒り、悲愴、不安………俺が感じられたのはこれくらいか。
上司の顔を窺うのは得意で、いつもしてたから、こういうのは半ば反射神経のようなものだった。
仕草とか、表情とか、声のトーンとか色々なものを総合的に見て……って、それは今はどうでもいいか。
「ねえ………自分が何しでかしたのか、ちゃんと分かってる?」
「俺、は…収録中に倒れて」
「そうだよ。今回は生放送じゃなかったから良かったものの、それが一体どれだけの大勢の人に迷惑かけたと思ってるの?」
美風の言うことはもっともすぎて、俺に反論の余地は無かった。
直前まで元気だったとか、気づかなかったとか、この際そんなことは関係ない。
大切なのは結果だ。
俺は収録の最中に倒れて、スケジュールを台無しにした。
その“結果”が、大きくのしかかってくる。
とにかく今は、謝罪するしか俺にできることは無い。
「ごめん…美風、俺___」
すると、不意に美風は
俺を、優しく抱きしめたんだ。
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作者名:蒼乃 | 作成日時:2020年6月10日 21時