参．10人目の雪柱

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Aside


『では私はそろそろ…しのぶの件、本当にありがとうございます』



扉に手をかけた私の背中に小さな声が届く

「どうか、ご無事で」



一瞬足が止まったものの私は何も返すことなく歩き出した



・

・

・




とまぁ、珠世さんに了承をもらったことをしのぶに言いにきた訳だが



少し空いた部屋の扉から中を覗いてみると紫色の液体を飲むしのぶの姿が






『しのぶ』


声をかければその細い肩はピクリと揺れて、


ゆっくりと振り向いた





「覗き見とはAさんも趣味が悪いですね」


一歩足を踏み入れれば濃い藤の花の匂いが鼻に届いて思わず顔を顰める



『息がしづらくはないのか？』


「えぇ…もう慣れていますから」


『そうか、』と返した私にしのぶが不思議そうに首を傾げる



「何を飲んでいたのかと聞かないんですね」


『あぁ…知ってるからな、聞く必要はない』




しのぶは少し目を見開き「どうして…」と声を上げた



『カナヲだよ、しのぶを死なせないでくれって頼まれたんだ』


「カナヲが…」



複雑そうな表情をしながらもどこか嬉しそうなしのぶに、本題を言う






『しのぶ、犠牲になんてならなくていい』








「え、？」と動揺したように目が揺れるしのぶに『なぁ』と呼びかける





『死にたいのか？』




「そ、んなことは」と明らかに口籠もるしのぶに少しため息をつく






『カナエさんの仇を取る為にその命を投げ出すか？

カナエさんや御両親をおいて自分一人幸せになっていいのかと思ってるのか？』




「そうでもしないと姉さんの仇は取れませんから、仇を取るのは悪いことですか」


しのぶの目にはいつ頃から強い意志が宿っていて

握りしめた拳は震えていた





『仇を取るなとは言ってない』


「じゃあなんで…！」



『他にも方法があるというのを言っているんだ、』



「方法、？」と訝しげに私を見るしのぶに『あぁ』と微笑む



『珠世さんに頼んだんだよ、しのぶの体内にあるのと同じくらいの毒をな

言っただろう？しのぶ、人を頼れって』



『それにしのぶが幸せになること、カナエさん達はそれを一番に願っていると思うがな』








『だから、な？』としのぶの肩に手を置く




『死ななくていいんだ、しのぶ』












しのぶはふはっと息を吐くように涙を浮かべながら笑った


「本当に貴女は…私のやろうとすること全てを阻止してきますね」

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