第二八話「恐怖」 ページ29
頭がふわふわして、体が思うように動かない。まるで金縛りにあったかのよう。その人は私に覆い被さって、骨ばった手が頬に触れた。冷たくてひんやりしててとても気持ちいい。その人は白粉を拭うように頬を撫でると驚いた顔をした。
「この傷…だからお酌だけだったんだね」
私の頬の傷を見て驚きはしたけれど、その人は構わないとでも言うように私の着物の帯をスルリとほどきはじめた。やめてと言おうとしたけれど、恐怖と酔いで声が出なかった。私に覆いかぶさってるのは、欲にまみれた男。獣だ。
冷たい手が私の鎖骨を撫でて、乱れた着物の隙間から手を入れようとした。その時だ。
「お帰りください」
バシャリと、冷たい液体が男の人にかかった。その人にかかった液体は私の頬にピチャンと落ちる。私は倒れたまま目だけ動かしてた。そこには、お酒の瓶を持ったお菊さんがいた。異変に気付いてくれたのか、まだ髪の毛はしていなかった。
「お菊さん、会えて嬉しいよ」
「聞こえませんでしたか？どうぞお帰りください」
姐さんは男の肩をグイッと押す。渋々男の人は私の上から退く。姐さんは男の人を見下ろしていた。その背中は普段見ている姐さんの背中じゃない。
「あまりにも可愛い子だったから、お酌だけじゃ勿体ない」
「帰んな。規則も守れない奴は客じゃない」
姐さんの起こった声を聞いたのは初めてだった。男の人は舌打ちをうつとびしょ濡れのまま、部屋を出て行った。私は震える左手で起き上がれば直ぐにフワリと姐さんに抱きしめられた。ふわりといい香りがする。姐さんの匂いに包まれれば、恐怖から解放された安心に瞳からは音もなくつぅ…と流れ落ちた。姐さんにすがりつくように私は背中を回した。
「ごめん、ごめんなさい姐さん…！」
「謝ることなんてない。姐さんが悪いの。怖かったね…」
だって、姐さんの常連さんでしょ。このお店の大事なお客さんなのに、私追い出しちゃった。男の人って、あんな怖いものだったの？鬼より、男の人が怖い。初めて、男の人の欲を目の当たりにして、これからどう男の人と接すればいいかわからなくなった。右手も使えない、お客の相手もきちんとできない。
私の存在価値は、一体なんなの？
未だ震える手で姐さんの着物を握りしめた。
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❤︎ - 面白かったです〜！！！最後には少しうるっときました…笑もう3年も更新されていない事に驚きです。続きが気になる〜〜！！何年でも待つのでまた更新してくれたら私含め読者達ありがたいです！待ってますね。 (8月24日 21時) (
レス) @page41 id: f6dfc22ed3 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ - めっちゃ面白いです！！！更新待ってます！！！！！！！！ (2022年3月22日 22時) (レス) @page41 id: 4673827fe0 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 続き！続きはどこ？！ねぇ？！（（やかましい (2022年2月26日 21時) (レス) @page41 id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
とうめい - 終わっちゃった〜…続きが気になります…更新待ってます！！ (2021年10月3日 12時) (レス) @page41 id: 4fdb593f0d (このIDを非表示/違反報告)
りあむ(プロフ) - 終わり！？更新待ってます、、、 (2021年10月2日 20時) (レス) @page41 id: 5dcfb8d8c8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桜餅 | 作成日時：2019年11月17日 20時
