第三六話「育手」 ページ37
私は、これで本当に良かったのだろうか。
「…」
私は一室で机に寝て伏せていた。宇髄さんの屋敷に来てからもう2週間は経った。須磨さん、まきをさん、雛鶴さん。やっぱりあの三人は原作通り優しかった。私の生い立ちを知っていて気配りもしてくれた。何不自由ない生活。もう錆兎や義勇に会うことはない生活。これでいいはずなのに、やはり会いたい気持ちが高まっている。
私は花街にいた時、どこか期待していたのだろう。あの二人が、ここから連れ出してくれるその日を。もうそんな日は、来ないのだけれど。
「…おい、A」
「！…宇髄さん」
いつのまにか私の部屋へいた宇髄さん。襖に手をかけたその姿は、着流しではなくて鬼殺隊の服。私はそれに気がつくと立ち上がって宇髄さんに近づく。
「今から任務へ？」
「ああ、しばらくは帰れない」
宇髄さんは柱だから、帰ってこれないなんて日常茶飯事だろう。開けている屋敷は奥さんに全て任せていたんだなとどこか他人事のように考える。今は私もその一人だけれど、表面上でしかない。
「…A」
「？…はい」
宇髄さんが私の顔をじっーと見つめながら答えた。私はそんな宇髄さんに首をかしげる。宇髄さんは私の頬に手を伸ばすと傷跡をなぞるように優しく触れた。
「あいつに会わなくてもいい。だが、育手には生きてる事を伝えろ」
「えっ…」
私はそんな事を言う宇髄さんに目を丸めた。私が、鱗滝さんのところへ…？そんなの、許されない。私は最終選別に落ちたのだ。こんな落ちこぼれ、鱗滝さんは会ってもなんとも思わないだろう。それに宇髄さんはどうしてまた急にこんな事を言ったのだろう。
「お前、日々悩んでるだろ。地味な考え先延ばしにするよりも一発育手に会って相談してみろ」
宇髄さんはそのまま私の頭を優しく撫でた。私はその言葉に驚いた。宇髄さんなりの優しさなのだろう。私はもうすぐで19歳になる。もう、原作は始まりかけている。炭治郎は鱗滝さんの元で修行をするけれど、錆兎と真菰のお陰で最終選別を突破できた。だがその錆兎は既にいない。私が生かしたから。私が、錆兎の代わりに教えなければ、主人公は死ぬ。ダメだ、そんな未来。
「…はい、そうしてみます」
今度は、炭治郎を生かすため。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3467人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
❤︎ - 面白かったです〜！！！最後には少しうるっときました…笑もう3年も更新されていない事に驚きです。続きが気になる〜〜！！何年でも待つのでまた更新してくれたら私含め読者達ありがたいです！待ってますね。 (8月24日 21時) (
レス) @page41 id: f6dfc22ed3 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ - めっちゃ面白いです！！！更新待ってます！！！！！！！！ (2022年3月22日 22時) (レス) @page41 id: 4673827fe0 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 続き！続きはどこ？！ねぇ？！（（やかましい (2022年2月26日 21時) (レス) @page41 id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
とうめい - 終わっちゃった〜…続きが気になります…更新待ってます！！ (2021年10月3日 12時) (レス) @page41 id: 4fdb593f0d (このIDを非表示/違反報告)
りあむ(プロフ) - 終わり！？更新待ってます、、、 (2021年10月2日 20時) (レス) @page41 id: 5dcfb8d8c8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：桜餅 | 作成日時：2019年11月17日 20時
