詐欺師 TheLastBorder3 (ページ42)

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噴水の前のクラウンページ42

ホテルから一歩足を踏み出せば、そこはもう全くの別世界。ビルに囲まれているのにも関わらず、青くすみわたる天上に体を洗われるような、そんな不思議な感覚が突き抜けていく。そのためか、自由な気持ちになれる。
目の前には噴水が一つ、その周りで色んな人が色んなことをしている。ウォーキングをしたり、談笑したり、ライブを開いていたり……どこか東京やニューヨークを思い出す。

「……ちょいとそこのお姉さん」

そんな景色に見惚れていたとき、唐突に横から声をかけられた。その人物は、道化師のような白塗りをしていた……厳密に言えばクラウンの化粧であった。涙が描かれていなかった。
しかし体格は大変良く、とても若々しいエネルギーを感じとることもできたが、その声色だけでも中年であるのだろうということが分かった。
そして、そのクラウンは男である。

「今から都市の散策ですか、いいですね。
この巨大都市は誰もが幸せになれる可能性を秘めているのです。巨大都市にしては珍しく、戦争には参加しないのです」

「……中立国か、さすがこれほどでかい街であるだけの兵力はあるものなのか？」

そのクラウンは、とても不思議な話し方をしている。語尾には必ず『です』をつけている。とても滑らかに、流れるような話し方であった。
だが、一瞬だけ語り口調につっかえがあった。つまり、素の話し方では無さそうだったのだ。
道化師故のことなのだろうか、大変である。

「そんな中立国なのです、よろしければ私が共になるのです」

笑顔で私を誘うクラウンの手を取ろうとした瞬間、何かの違和感を覚えた。
なんとも説明しがたい、
ほんの僅かの、
ただ知らんぷりだけはしてはいけないような違和感を確実に覚えた。

「……いや、良いよ。一人で大丈夫だ、後で連れも来る。
……せっかくだから、クラウンの名前を聞きたい」

「クラウンと分かったのですか、嬉しいです。ほとんどの人は『ピエロ』と言うものです。
さて、私の名前です。
『イヴァン・キー・ロフスキー』と申す者です。少し名前が長いものですから、イヴァンとでもお好きなようにお呼びくださると嬉しいです」

そう言い残し、クラウン『イヴァン』は姿を……一瞬で消していった。