【ツルネ】ハバタケ 〜The Lost Memory〜

19.これが、日常 ページ21

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家に、帰る。


｢ただいま｣

｢おかえり、鍵閉めといて｣


それだけ言って、中2の弟･知晃は奥へ引っ込む。まあ、いつものことだし、知晃なら、まだましだから別にいい。



｢父さん母さんは？｣

｢父さんはまだ仕事。母さんは風呂｣

｢了解｣


ただそれだけ。それが、普通。




ーーーー




自分の部屋に入ると、すぐ音楽プレーヤーの再生ボタンを押す。大好きな音楽をかければ、私につかの間の平穏が訪れる。
真夏の快晴みたいな、明るいアップテンポの曲。真夏の青空の下、自転車で坂道を風を切って下っていく、そんな感じ。









たった3分の解放が終われば、私は日常に帰る。


風呂の支度をして1階へ下りると、母はもう夜ご飯を作っていた。


｢すぐ風呂入りなさい｣

｢はい｣




ーーーー




｢ふわぁ〜……あったか｣


疲れた体が、あったかいお湯で解れていく。


……そういえば、小野木くんのとこの猫、白いのか。白猫っていいなぁ、飼いたい……。う〜、早く大学に入って家出たい！ 寮のある学校で暮らせば良かったかな。でも、お金無いから無理か。



それにしても風舞に入って、ほとんど(････)正解だったなぁ。

弓道部の人達は優しいし、これなら中学みたいなことは無いだろうし。竹早くんがいるから、テストで学年1位を取るのは難易度上がりそう。でも、勉強のしがいはあるから、頑張らないと。

風舞は偏差値的に大学行けないってことは無さそうだし、塾も始めたから、頑張れば医学部か薬学部でも狙えるかな。



ああでも、鳴宮くんと竹早くんがいたのは、本当に想定外だった。

どうしよう。
2人、きっと『あのこと』を忘れているんじゃない。そもそも、気付いていないんだ。それに……『彼』もきっと、弓道を続けているはずだ。

本当に、どうしよう……


｢A！ 父さん帰ってきたからすぐに風呂出なさい｣


バンッ！





｢……はぁーい｣



母さんの声と扉の閉まる音で現実に引き戻される。私は、無人の脱衣所に気の抜けた返事を投げて、風呂から出た。




ーーーー




｢父さんお帰りなさい。お待たせ｣


｢遅え。待たせるなって何度言ったらわかるんだ。てめえはどこまで自分勝手なんだよ｣


風呂から出ると、父さんに怒られた。不機嫌な父さんは面倒だ。私は逃げるようにクルのご飯のお皿を取る。


｢遅くなってごめんね｣


私は無表情のまま、クルの所へ向かう｡





何も、感じない。


何も、思わない。





家では、表情なんて、いらないから。





───これが私の、日常。

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今日の弓道男子

如月七緒

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