【ツルネ】ハバタケ 〜The Lost Memory〜

10.どうして ページ11

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その後も意味不明な会話を交わした後、鳴宮くんは観念したのか竹早くんから体操服を受け取って更衣室へ向かう。

しばらくすると彼は誰かの弓矢を借り、竹早くんの体操服を着て、皆の前に立っていた。



鳴宮くんが背筋を伸ばして立つ。
そして、森岡先生が説明を始めた。


｢弓道では、弓を引くときの作法がある。
まずは一礼し、摺り足で所定の位置へ向かう｣


森岡先生の言う通りに摺り足で位置に着いた鳴宮くんは、足を止めると、音も無く膝をつく。弦を中心に弓をくるりと回し、そして右手で、矢をつがえる。

彼は何か、彼自身に言い聞かせているような気がする。
遠目からでも、彼の呼吸が静かに、ひそかに、震えて見えた。


｢立ち上がり、自分の立ち位置を定め、的を見る｣


どこか迷っているような、覚悟を決めたような。
それでもなお、彼の所作も姿勢も、ひとつひとつが素人目にも綺麗だと思わせる辺り、彼は本当に弓道が好きだった(・・・)のだろう。


｢構えて……そして、ゆっくり弓を、引き絞る｣


森岡先生の言葉の通り、鳴宮くんは弓を構えて持ち上げ、引き絞っ……



……トスッ




矢は、的を外して、手前の土の所に刺さった。
先生の言葉の間合いから、あるいは誰かが「はやっ」と呟いた事からして、想定より明らかに早い段階で矢が弓を離れたのだろうと思われる。




……どうしたんだろう。
もしかしてこれが、あの『あれ』なのだろうか。


鳴宮くんは、言われるがままにすぐ次の矢を射る準備に入った。

でも、さっきと違う。
もっと動作が荒い。手が明らかに震えている。
美しかったはずの所作が、ぎこちなくなっている。



多分これは、あの『あれ』は、先生が言うような、緊張なんかによるものじゃない。……たかが緊張なんてものじゃない。あの『あれ』がもたらす被害はきっと尋常じゃないほどの、


もっと、何かもっと大きな…………






……トスッ






──心の傷なんだ。



彼が手にしていた矢は片方が的の右下に刺さり、もう片方は的はおろか、的の置かれた堤防のような所にすらも届いていなかった。


鳴宮くんは、苦しんでる。痛みを抱えている。なのに、誰もそれに気づかない……！

ねえ、鳴宮くんが的を外してがっかりしたようなそこの人。右隣の、もう既に飽きたような顔をした人。その残酷さに気づいてよ。注意すれば誰でもわかるはずの事。とても簡単な事なのに。


──なのに!!





｢誰も、気づいてないの……？｣





その後も説明会は続いたけれど、何をして、そしてどうやって帰ったのか、私は一切覚えていない。

11.久しぶりに→←9.予定外

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今日の弓道男子

如月七緒

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