【ツルネ】ハバタケ 〜The Lost Memory〜

5.春の弓道場にて ページ6

･





｢ほれ、中へどうぞ｣


先生の案内で弓道場に入る。
開けた空間に出ると、ちょうど一迅の風が抜けて、髪を揺らした。



｢──綺麗」




一面に広がるのは、若葉色がきれいな草。

明るい青空。真っ白い積雲に、舞い散る桜。柔らかな日差しが、それらを一層鮮やかに映し出す。




風にのって届くのは花の香り。木の香りと、淡い草の香りも心地よい。


近くでは草のそよぐ音、遠くでは葉ずれの音と鳥の鳴き声。


暖かい中を吹き抜ける、涼しい風も気持ちいい。



吸い込まれるような、目の前が一気に開けたような、半屋内独特の開放感と暖かさが、私を包む。

綺麗な景色に、まるで身体ごと呑まれたみたいで。



なんだろう、どこか夢の世界に、誘われてるような──





｢瀬戸名？」



広がる景色に目を奪われていると、誰かが私を呼んだ。



はっとした瞬間に目の前の景色は現実へと戻り、鮮やかさを失ってしまう。それを惜しみつつ振り向くと、鳴宮くんが怪訝そうに私を見ていた。


｢ところで、なんで瀬戸名は弓道場に来たの？」

｢あっそれ、おれも気になってた!!」


鳴宮くんの質問に、山之内くんが重ねてくる。それのみならず、ぐっと詰め寄られて、私は思わず一歩下がった。


2人とも背が高いから、威圧感が……


｢あ、あの、えっと……」




｢2人とも、瀬戸名さん困ってる」


急に後ろから竹早くんの声がしたものだから、私は電流でも流されたかのように、びくっと跳ねた。


｢えっ!? 瀬戸名さんごめん！ めっちゃごめん！」

｢あっ、えっ、だ、大丈夫、だよ。えっと、弓道場……ここが弓道場って知らなくて。部活の勧誘から逃げてきたら偶然行きついたっていうか……迷い込んだ？みたいな」

｢そうなんだ。てっきり弓道部入るとばっかり……」


途端、しょんぼり顔になる山之内くん。その様子は正直、飼い主に怒られてしゅんとしたゴールデンレトリーバーみたいで可愛い、なんて思ってしまうくらいの雰囲気があった。


｢山之内くんたちは入るの？」


すると、鳴宮くんが口を開く。


｢……俺はどこの部活にも入る予定はないよ。
母さんが亡くなってから、家事はほとんど俺がやってるから……」

｢……お、おばさん亡くなったの？ 何も知らなくてごめん！」

｢いや小6の夏だからもう全然」



ああ、そういえば。
彼が母親を亡くしたという話を、どこかで聞いたような……。



｢……交通事故？」


私は、もう朧気な記憶を頼りに聞いてみる。すると、返ってきたのは予想外の反応だった。


｢え、瀬戸名って、他人の思考読めたりするの……？」

6.弓道部→←4.行き着いた先で

• 金　運: ★☆☆☆☆
• 恋愛運: ★★★☆☆
• 健康運: ★★★★★
• 全体運: ★★★☆☆

ラッキーカラー

あずきいろ

おみくじ

おみくじ結果は「末凶」でした！

今日の弓道男子

如月七緒

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す