さよなら、Dayflower【あんスタ】

80.大嵐吹き荒れて ページ33

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あの先生がいるって知ってたら、あの先生が顧問だって知ってたら、私、絶対に生徒会なんか入ってなかった。


絶対に、絶対に──ぜっったいに。


｢失敗しても、謝れば許される。どれだけ転んで泥に塗れても、涼しい顔でいられる。丁寧に全身を洗われ、新しい『おべべ』を着せられて、また歩いていける。

よかったですね、蓮巳くん。『次』がある、子供で｣



……ねえ、嘘でしょ？


私の手から、ジャムの籠が落ちる。


何なの、その言い方。

そんなのまるで、父さんみたい。
他人を見下して否定して、自分の正当性を証明したがるだけの、己の意見が正しいと信じ込んだクズみたいじゃないか。

椚先生はそんな人じゃないけど、やってることは同じだ。



嫌だ。嫌だ。嫌だよ、もう。

逃げて逃げて、逃げた先でも私はまた、同じ悪夢に苛まれるの……？


恐怖に、絶望に、全身がすくむ。体から全ての血液が引いていくような気さえする。


そんな私のこともつゆ知らず、椚先生は、とどめの一言を放った。




｢――愚図は、嫌いですよ｣


｢…………！｣


その言葉は、まるで私の心に呪いのように絡み、突き刺さった。
奥底に眠る心の傷を呼び起こす、呪いそのもののような……とにかく、私は怖くて怖くて、音にならない叫びで塞がる喉を、絞め付けることしかできなかった。


｢お言葉、痛み入ります｣


そんな蓮巳先輩の言葉に振り向きもせず、椚先生は去って行った。




ーーーー




椚先生の高く響く足音が廊下の向こうに消えた頃、桃李くんがムッとして文句を言い出す。


｢……うわぁ、何あれ？ 相変わらずカンジ悪いなぁ〜、顧問だからって生意気！ ハゲてしまえ！｣

｢気にするな。口より手を動かせ、姫宮｣


たしなめる副会長さんも、やはり悔しいのだろう……いや、きっと、彼がいちばん辛いのだ。手にしていた書類を、ぐしゃり、と握り締めていた。


私は、落としたジャムの籠をそのままに、副会長さんの元へ歩み寄る。


｢副会長さん。……書類、しわになっちゃいますよ｣


床に膝をつくと、やや筋張った大きな手を、優しく撫でて開かせる。


｢ゆっくり、力を抜いて。深呼吸です。怒りの伝達物質は、90秒で全身を1周し終わるそうですから｣


別に、知ったかぶりとか、｢才がる(才能をひけらかす)女｣とか言われてもいい。

今、たったさっき私に居場所をくれたばかりの恩人が、散々に言われている。それを、見ていることしかできなかったのが悔しいから。だから今からでも、とにかく私にできることをしたかった。

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