065:あの日 YN ページ16
謝りながら泣き続ける彼女を
見ているだけの俺は
今この瞬間 世界中の誰より一番
冷たい目をしているかもしれない。
本当は誰にでも優しい俺なんて
俺の中のどこにも存在しないのだから
仕方のない事だ。
「あの日…どうしてあんな事をしたのか分からないんです」
「そう…」
「でも、気付いたら…Aさんに声を掛けていた」
「…」
「心臓が…破裂しそうなぐらい…苦しくて」
「…」
「もう…ああするしか…ないと…思いました」
海外へ行く時
俺たちはいつも同じ航空会社を使うから
彼女とは何度も顔を合わせてる。
優しく微笑む姿に
どことなくホッとしたり
抜かりない気遣いに
自然と癒されたり
多分それは
ﾁｬﾝﾐﾝも同じだろう。
だから、尚更だ。
「Aをどうしたかったの」
「え…」
「Aが記憶を失くしたと知ってどう思ったの？」
「ご…めんなさい」
「それでアンタは報われたの？」
「それは…ありません…絶対に」
「ふーん……そっか」
彼女を駆り立てたのは
いったい 何だ。
その理由を聞いたとしても
理解できる気がしない。
だから、尚更だ。
「誰を、庇ってる？」
「え…」
「アンタをそこまで追い込んだのは、誰？」
「私は一人で…！」
「お前の飼い主は誰だって聞いてるんだよ」
苛立ちが全身を駆け巡る
冷静でいられるギリギリの所で
踏み止まっていられるのは
他でもない遥のおかげだろう。
「答えないなら、あの日Aにしたこと、俺にしてよ」
「そんな…できるわけ…」
「あの日は出来たのに？」
「…罰は…受けます」
「罰…ふーん…そっか」
泣き崩れた女に
そっと手を差し伸べて
俺は 笑った。
「じゃ…俺たちの前に二度と現れないと約束してくれ」
「…」
「と、言いたいところだけど」
「え…」
「それじゃ罰にはならないからやめた」
「じゃ…私は何を…」
「とりあえず俺たちのマネージャーにでもなってもらおうかな」
「どういう意味ですか…」
「それは自分で考えなよ」
呆然と立ち尽くす彼女に
一枚のメモを持たせて
俺は 薄暗い階段室を出た。
「遥…！」
ちょうど 遥が 空港スタッフに抱き抱えられて
俺の前を通り過ぎた時
フワリと花の匂いがした。
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作成日時：2017年11月6日 23時
