064:誰 (haruka) ページ15
ﾕﾉはいったいどこまで行ったのだろう。
ただでさえ早めに着いた空港。
ゆっくりお土産を選んでもなおまだたっぷり時間がある。
ふと窓の外を見ると
ガラス越しに 視線を感じた。
「あの…遥さんですか？」
振り返ると、知らない女性が立っていた。
まるでモデルのように長い脚が
ゆっくりと私に近づいてくる。
「あの…」
「突然ごめんなさい。私、ﾕﾉの古い友人です」
予想外の言葉に
頭がついて行かなくて
ただ彼女から目を離せない。
「警戒しないで。さっきﾕﾉを見かけたから、挨拶しようと思っただけ」
「…」
「あなたの事はﾕﾉから聞いてます。結婚する事も知ってます」
「…」
「まさかこんな所で会うなんて、まるで運命だわ」
「運命…？」
運命という言葉を
大袈裟に感じさせない
不思議な声だ。
「あの日、ちょうど今のあなたみたいに、ここに彼女が座っていた」
「…」
「すごく幸せそうだった」
「…」
「だからね、ちょっとだけ意地悪したくなったの」
血の気が引いていくのを
こんなにもリアルに感じるのは初めてだった。
周りには たくさんの人たちがいるのに
まるでここには
私と彼女しかいないみたいだ。
「だけど、まさかこんな事になるなんて思わなかったのよ」
「だ…だれか…」
「それに、私は直接彼女を傷付けたわけじゃない」
「ﾕﾉ…」
「全部あのバカなCAがやったのよ」
フワリと花が咲いたように
優しい香りに包まれて
動けなくなった私は
ただ耳元に響く彼女の声を聴いているしかなかった。
「Aさんに伝えて」
「だれか…」
「早く記憶が戻りますように」
ストンと身体の力が抜けて
椅子から崩れ落ちた時
立ち去る彼女と入れ替わりに
空港スタッフの男性が
慌てて駆け寄ってくる。
目を開けたら 真っ白な天井が見えた。
パッと視界にﾕﾉが飛び込んできた瞬間
まるで息を吹き返すように涙が溢れると同時に
強い力で抱きしめられた。
「遥、ごめん」
ソウル行きの飛行機に
彼女の姿はなかった。
ﾕﾉは何も言わない代わりに
ぎゅっと私の手を握り締めたままだった。
掠めた不安の正体が何か
今は分からない。
「俺を信じて待っていてほしい」
翌日の朝 目を覚ましたら
ﾕﾉはいなかった。
まるで、長い夢を見ていたような
そんな朝だった。
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作成日時：2017年11月6日 23時
