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050:グラデーション ページ1

-僕の事は…放っておいていいから。





少し寂しそうな顔で

チャンミンが笑った。

その時 頭の真ん中に

一筋の閃光とともに 記憶の断片が姿を現した。





『アナタは願いを叶えたのね』
『願い?』





途端に襲ってくる痛み

でも どうしても

その断片を拾い集めたいと思ったのだ。





『アナタが言ったのよ』
『え?』
『留学生だったアナタが私に言ったの』
『え…』
『夜になる前の空のグラデーションみたいな人』





グラグラと崩れ落ちる

この断崖の先に

きっと私の記憶が…





「どうした…?」
「…グラデーション」
「A?」
「…夜になる前の空のグラデーションみたいな人」
「え…」





『私は、そんな雰囲気を持った人がいいの』
『ああ…それ…言ったかもしれない』
『…いつ紹介してくれるの?』
『そうね…事情があって…』





まるで波が引くように

痛みが小さくなっていく。

さっきより近くに湖が見える部屋の

大きなカウチの上

目覚めるように目を開いた。





さっきよりも心配そうな顔で

チャンミンは私を見ていた。





「チャンミン、冷めないうちに食べて?」
「…」
「私、もう大丈夫だから」





長い腕に包み込まれた時

チャンミンの心臓の音が聴こえた。





「もういい…」
「…」
「もういいよ…A」
「…」
「あと何回…苦しめば…楽になるんですか」
「…」
「あんなに苦しそうな顔してるA…あと何回見る事になるんですか」
「…」
「どうして…」
「…」
「…僕を忘れてしまったんですか」





力強く私を抱きしめながら

チャンミンは泣いた。

それは

私を責めているようにも

逆に 労わっているようにも聞こえる。

だけど

このままでは

私の記憶が戻るより先に

彼が壊れてしまうような気がした。





私の選択は

もしかしたら 間違っていたのかもしれない。

記憶が戻ったとしても

戻らなかったとしても

彼のそばにいる

その決断は

他でもない、チャンミンにとって

一番残酷な答えだったのかもしれない。





「3か月…」
「え…」
「私に…3か月時間をください」
「時間…?」
「3か月で…もし記憶が戻らなかったら」
「違う!僕はそういう意味で…」
「もし…戻らなかったら」
「だからそういう意味で言ったんじゃない!」
「…私は…これ以上アナタの苦しむ顔を見たくない」





グラデーションの空は

暗い夜を迎えて

今 終わろうとしている。

051:月 CM→



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作成日時:2017年11月6日 23時

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