007:寝言 JN ページ8
Aを見つけた時
異国の空港で 必死に出口を探していた。
入っちゃいけない所に迷い込んだと気付いた薄暗い階段の踊り場。
まるでサスペンス映画のように
Aは階段に倒れていた。
もしかしてこれは夢じゃないのか。
そう思いたい自分と
やばい、本当に間に合わない。
そう焦る自分と。
今思えば
あれは立派に【運命】だったのだろう。
男と女のそういうやつじゃなくて
何と言えばいいのか
はっきりとはしないけど
とにかく Aを見つけたのが俺だった事。
この事実を あの時も今も
なぜか素直に受け止められる俺がいる。
日本人のAは随分年上だ。
だけど ﾇﾅもｻﾝも付けない。
いや、むしろ付けるのを忘れてしまうほど
Aは年上臭を放っていない。
まるで仇名のようにｵﾊﾞｻﾝと呼んでも
ちっとも気にしてないところが
俺は気に入っている。
Aは韓国語がとても上手で
そして ｽﾀｲﾘｽﾄ並みにｾﾝｽがいい。
もしかしたら職業にしていたのかもしれない。
とにかく 記憶を失くしてしまった彼女を
この家に【保護】した事
これも 俺にとっては当たり前の事に思えた。
仕事でほとんど家にいなくても
家にいる時は じっくりAを観察してる。
夏休みの自由研究みたいで楽しくて
最近やたら機嫌がいいとﾒﾝﾊﾞｰたちに気味悪がられてる。
Aの持ち物の中には
財布も日本の運転免許証もﾊﾟｽﾎﾟｰﾄも
ショップの会員証でさえも残っていた。
明らかに特注だろうと分かるｷｰﾎﾙﾀﾞｰには
真新しいカードキー
だけど ｽﾏﾎはなかった。
身に着けていたﾊﾟﾝﾌﾟｽはルブタン
鎖骨あたりに揺れるダイヤのﾈｯｸﾚｽ
ネットで調べたらﾃｨﾌｧﾆｰだった。
それだけじゃない
薬指には ハリーウィンストンのデカイ指輪までしてた。
そう、Aは
間違いなくどこぞのVIPの奥さんや恋人や婚約者…もしくは、愛人？
Aがこの家に来た日
夜中に目が覚めた俺は
ふと心配になって
ｹﾞｽﾄﾙｰﾑで眠るAの様子を見に行った。
悪い夢でも見ているのか
眉間に皺を寄せて
苦しそうな寝顔に
胸が締め付けられた。
そして
次の瞬間
俺は 聞いてしまった。
-佐々木さん…ｼﾞｮｾﾌ…
咄嗟に
脳みその中のありとあらゆる引き出しを引いたけど
そもそも外国人の知り合いなんていない俺には
どうしてやる事もできない 寝言を。
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作成日時：2017年5月20日 0時
