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018:記憶 ページ19

「A………?」





脳裏に蘇ったのは

20時を指す時計と

手を振る姿。

あれはいつの事だったのだろう…





「蒼…くん…?」





ズキズキと頭が軋む様に痛みを増す。

呆然と立ち尽くす彼は

ただじっと私を見ていた。





「うまく説明できないんだけど…思い出せなくて」
「…どういう…事?」
「でも、今蒼くん見て…蒼くんだってわかった」
「A、いったい…」
「もし…私を探してくれていたのなら…」
「…」
「ごめん…なさい」





彼が蒼くんだとはっきり分る。

だけど

彼との思い出のような深い記憶は

まだモヤがかかったままだ。





蒼くんは呆然とした表情で

私の前にストンと座った。

温かなコーヒーの香りが

私たちの沈黙の間で揺れている。





「インスタ…返事くれたの…蒼くんよね」
「インスタ…………」
「まさか本当に…迎えに来てくれたなんて」
「本当に…何も思い出せないのか?」
「うん…夢の中にいるみたい」
「そっか…」
「目が覚めたら空港の階段室みたいな所にいたの」
「…」
「どうしてそこにいたのか全く思い出せないし、直前に何をしていたか…自分が誰なのかも」
「…今までどこに…?」
「助けてくれた人がいて…その人の所でお世話になってた」
「あの人の事も…思い出せないのか?」
「あの人…?」
「…」
「あの人って…誰?」
「いや、思い出さない方がいい事だってあるから」





あの人って誰の事だろう。

蒼くんは 嬉しそうに少しだけ涙を浮かべて

私を見ては笑顔になった。





「A、福岡に帰ろう」
「私…福岡に住んでたの?」
「そうだよ、俺と一緒に」
「でも…どうしてあの日韓国行きの搭乗券を…」
「あの人に無理矢理連れて行かれそうになったんだ」
「…無理矢理……」
「俺はずっと探してた…こうやって会えるなんて」
「…」
「やっぱり俺たちは運命だ」





ーAさん、好きですー





青い海と

揺れる髪

砂浜

太陽の光






繋いだ手から

伝わる温もり。





「あの人がどんなに俺たちの中を割こうとしても」
「…」
「きっと永遠に無理なんだ」
「…頭が…」
「A?!」
「たすけて…っ…」
「おい!しっかりしろ!!」





「…チャンミン」





『A、愛してる』






再び激痛の渦に飲み込まれながら

その声に縋りついた。

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作成日時:2017年5月20日 0時

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