All of me. (ページ36)

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035:故郷ページ36

「…どう？久しぶりの故郷の匂い」
「…」
「…そう簡単じゃないか」
「…そうみたいです」

遥さんと降り立った福岡。

懐かしいような

そうじゃないような

変な気分。

ﾕﾉさんとﾁｬﾝﾐﾝさんは

お昼頃の到着と聞いた。

さすがに彼らの仕事にずっと付いて回る事はできない。

私と遥さんは

2人でこの街に置いてきたはずの

私の記憶のｶｹﾗを探す事にした。

「ﾕﾉたちは今日夜遅くまで打ち合わせらしいからゆっくり観光しましょう」

まるで古くからの友達と旅行にでも来たみたいに

遥さんの声が弾んでいる。

今朝家を出る時

ﾁｬﾝﾐﾝさんは、これだけは必ず守って欲しい

そう言って一枚のメモを渡した。

・絶対に無理をしないこと。
・何かあったらすぐに連絡すること。
・知り合いだという人が現れても付いて行かないこと。
・一人にならないこと。
・部屋に戻ったら連絡すること。
・一日の出来事を記録しておくこと。

「最後の、［一日の出来事を記録しておくこと］って…必要？」
「…さぁ…どうでしょう」
「まるで学校の先生みたい、ﾁｬﾝﾐﾝ」
「そうですね」

でも、ﾁｬﾝﾐﾝらしいなぁ。

遥さんは笑いながら美味しそうにﾊﾟｽﾀを頬張った。

「んんん…このソース絶妙」
「美味しいですね」
「ねぇAちゃん、ﾗﾝﾁの後買い物行かない？」
「はいっぜひ」

遥さんは優しい。

落ち着いた声と

さりげない気配り

爽やかな笑顔は

まるでひまわりみたいだ。

「えっ…証券会社？」
「うん、遠い昔ね」
「…意外」
「あはは…毎日お金の運用のことばかり考えてたら、ある日突然嫌になって」
「…うん」
「何か手に職付けたいなぁって」
「あ、それでｼｪﾌ…」
「ううん、歯科技工士」
「え」
「今思えば昼間OLで夜間で歯科技工士の勉強してたなんて寝不足過ぎて吐きそうなんだけど」
「…確かに」
「でも、楽しかったし充実してた」
「そっか…じゃOLの後は…」
「私の計画ではね、結婚する前にOLを辞めて、結婚した後は歯科技工士になれたらいいなぁと思ってたの」
「うん」
「でも…結局全部なくなっちゃった」
「え…」
「あ、正確にはお金以外は全部だけど」
「遥さん…」
「ま、今はいい思い出かなー」

もしかしたら

流れるように

私の思い出も蘇るんじゃないかって

そう思う自分が

少し悲しい。