理解 ページ26
「…ぶらぶら〜っとしてくる。
理由、後で教えてね」
「はい！」
「帰んないでね〜」
「はいはい」
わかってるよ。
「あっ、でもA様！
先ほどナンパされてましたが大丈夫ですか？」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。
そんな弱かったら人守れねーもん」
じゃあね〜、と手を振って、ファミレスから出る。
…今日は、家には帰りたくない。
何故か、なんて、確かな理由なんてない。
ただぼんやりとした、漠然とした感じだけど。
“帰りたくない”という思い。
…小学生の時もあったな。
母さんの命日、家に帰りたくなくて、姉ちゃんと近所をいろいろ回った。
…ああ、思い出した。
今日が、母さんの命日だ。
それと、なんかの偶然だったのか今でもわからない。
今日は、母さんと姉ちゃんの命日だ。
…そっか、そっかあ…。
だから、今でも涙が止まらないんだ。
この世界で会えて、嬉しかったのに。
また会えたって、思えたのに。
なんで、私はすぐに消しちゃうかなあ…。
思い出も、人も、物も、記憶も。
ぼろぼろと頬を伝って流れる涙は、まだ止まらない。
路地裏に入って、壁に背中をつけ、ずるずるとへたり込んだ。
嗚咽が、涙が、止まらない。
自分が消した。
自分のこの思いに気付かなかった。
自分が全部やった。
自分が。
もう一人の自分がいて、お前が悪いと責め立てる。
自分に責任がある。
自分に原因がある。
自分がダメなんだ。
もっと、努力を。
もっと、経験を。
もっと、糧を。
元々そんなに頭が良くなりたいわけじゃない。
元々頑張りたかったわけじゃない。
でも、期待が。
羨望が。
それらが私の枷になる。
どんどん重くなって、ぺしゃりと潰れそうになる。
上を目指さなければ。
一番じゃなければ意味がない。
有利にならなければ。
人を蹴落とせ。上を目指せ。
今、それらが頭の中でリピートされる。
…記憶がなくなって良かったと思ってるんじゃないか？
そりゃあそうだよ。皆が危険にさらされなくて済む。
…自分が楽になりたいからだろ？
面倒なことは嫌だからね。
…全部、自分のため。
誰々に言われたから、皆とためとか逃げておいて、本当は全部自分のためなんじゃないか？
…そうなのかもしれない。
自分が上を取りたかったから、自分が有利になりたかったから。そんな理由だよ。
人なんて、そんなもんだよ。
…ほら、また言った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：リリムゥ | 作成日時：2018年1月26日 18時
