窃盗 ページ42
中はかなり入り組んでいる。
ミラージュから聞いた通り、たくさん机が並べられ、騎士がうろうろしている。
奥には大事そうに保管されているライアーが見えた。
机を障害物にし、かがんで移動する。
それでも騎士の視線をかいくぐれなさそうな場合は、石を投げて注意を分散させたりした。
やっていることが完全に泥棒のそれである。
なんとかライアーの元に到着したころには、心臓がバクバクと音を鳴らし、あまり動いていないのに息が切れていた。
ライアーに触れようとした瞬間。
紫の服をした女が目の前を横切った。
「誰だ!?」
パイモンが慌てて飛びのく。
女は妖艶に人差し指を唇に当て、言葉を制した。
蛍はハッと我に返る。
ライアーだ。ライアーを取らなければ。
しかし、蛍が駆け出したころにはもう遅かった。
あともう少し。そんなところで、女は跡形もなく消えてしまったのである。
蛍は走った勢いを受け身を取って分散し、パイモンは蛍の傍に駆け寄り、あたりを見渡すが、あたりには誰もいない。
誰かいた痕跡もない。
「あいつ……消えた?」
いや、そんなはずはない。
あの女は、確かにここにいた。
「動くなッ!」
突然鋭い声が背中から聞こえてきて、慌てて振り返る。
___騎士だ。
「そこで何をしている!?」
さっきの騒ぎでバレたのか。それとも___
「まずい、逃げろ!!!」
なんにせよ、早く撤収しなければいけないことに変わりはなかった。
蛍は全力で駆け出す。
とりあえず騎士を撒けばいい。
「わ、わああぁぁぁぁぁー!!」
二人は焦って外へ出た。
パイモンの叫びに気づいたウェンティとミラージュが振り返る。
「気づかれた、走れ!!」
二人は一瞬呆気に取られて固まったが、すぐに状況を理解し、うなずいた。
「ついてきて!」
ウェンティは手すりから颯爽と飛び降り、ミラージュが後を追う。
蛍とパイモンも慌ててそれを追いかけた。
なんとか騎士たちを撒くことに成功したのも一瞬。
今は慣れない風の翼の操縦に集中しなければいけない。
だが、さすがは呑み込みの早い旅人。
モンド特有の赤い屋根の上を軽々と通過し、なんとかある酒場に滑り込んだ。
「ディルック様、こちらが今月の帳面です。」
カウンターで、燃えるように赤い髪を束ねた男が、手紙を受け取る。
「今度の龍災、やはり影響が大きい」
「早く収まるといいですね」
そして、二人は肩で息をしているこちらに目を向けた。
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作者名:おいしいじゃがいも | 作成日時:2023年4月5日 20時