厄介なやつに好かれたら【降谷零】

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「式中に息切らしてるやつ初めて見た」



萩原さんが笑いを堪えながら私の隣で静かに呟く。

私は呼吸を整えることに精一杯だったので、返事をするにもできなかった。


松田との鬼ごっこが長期戦と化したかと思えばすぐに式が始まったのは予想外。

そーいや私の代表の言葉いつだったけ

まぁ最後あたりだとおも……



「女子代表、楪A！！」



いや、もう出番かい！と心の中で突っ込みが入る。

慌てて返事をすれば、萩原さんの笑い声がよりいっそう聞こえてきた。

なんなんだこの人は


前に出て周囲を見渡せば知ってる顔ばかり。だから急に安心した。


いつも煩くて私ばかり怒った鬼教官。でも、何やかんや優しいところもあった。

花子もいるし柔道で投げ飛ばした女の子もいる。



私の席の周りを見れば諸伏さんも伊達さんも萩原さんも松田も降谷さんも……

もう、毎日のように馬鹿みたいに笑うのは今日で最後。



「私は……」




言葉が詰まった。

らしくもなく不安になる。頭が真っ白になった。

あんだけ練習した言葉も……いや、そんな練習してないけど、頑張って考えた言葉も全部忘れた。

ただただ、これで今日までの日々が幻みたいなるのが怖くて



そんな時、降谷さんと目が合う。



『大丈夫だ』



口元が微かに動いたのを読み取った。

降谷さんは特別だ。



「私は……」



そう、きっと大丈夫だ。

落ち着けばできる。

別に緊張してるわけじゃない。



「私はここで学んだこともここで一緒に過ごした仲間のことも絶対忘れません」



それでも口から出てきた言葉は練習で口にしたものの面影さえすっ飛ぶような内容であった



「私は我を貫きます。ここで学んだ全てを全力で正義へつぎ込みます。最後に立派な警察官になれたら私は今日までのことを再び思い出して感謝します。ここで卒業できたことを誇りに思います」

「だから立派な警察官に絶対なります！！」



会場が静まり返ったかと思えば拍手が聞こえた。

１人の拍手

降谷さんの拍手だった。


それに続いてたくさんの拍手が会場に響き渡る。


笑顔で微笑みながらこっちを見る鬼教官に馬鹿馬鹿しくなって少しだけ笑った。

花子はどこからか取り出したのかこっそりビデオを構えている。

本当、最後まで楽しかった。









第１シリーズ end

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