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そのぬいぐるみを持ったまま、右足を軸にして左足の回し蹴りを食らわせる。今度は見事に彼女のこめかみに命中した。彼女はよろめいて壁に手をつく。

右手の人形は放り投げて糸で刻む。この狭い玄関内でなら、彼女の人形もあまり多くは使えない。せいぜい二、三体。それもマネキンサイズは出せないだろう。ぬいぐるみ二、三体なら大して脅威ではない。

頭を押さえてこちらを睨む彼女の姿は夜叉のよう。以前ならそれだけで恐怖に支配されていただろう庵里は、にこりと微笑み、背を向けて家の奥へと走った。第一目標は雅火の保護だ。糸で廊下を遮断し、桜灰の追跡を振り切ってリビングへと駆け込む。予想通りそこには雅火がいた。同じ姿の自分の片割れ。目が合う。やはり自分のことなど覚えていないのだ、と少しばかり悲しくなる。それでも彼女の手を掴んで庵里は言った。

『……逃げるよ!』

雅火は状況が理解できていないようだ。当たり前だろう。いきなり自分と同じ顔の女が現れただけでも訳が分からないだろうに、その女に手を引かれて走らされているのだから。走りながら彼女は庵里へと質問を投げ掛ける。

「どうして、誰、桜灰さんは、私を離して!」
『ここから連れ出せたら離してあげる。雅火、思い出さなくていいから、今だけは私のいう通りにして』
「……何で、私の名前を」

その質問には答えなかった。ここから雅火の手を引いて走り逃げるのはこれが二度目だ。玄関には向かわなかった。桜灰から雅火を守りつつ逃げるのは恐らく難しい。糸で勝手口を開ける。力加減を少し間違えて壊してしまったが、些末な問題だ。裏庭にはまだ桜灰はいない。人形は数体転がっているがそれだけだ。家の敷地に沿うようにして帳が降りている。庭の柵を開けて帳に触れると、庵里だけは弾かれる。雅火は通れる。

『雅火、ここから逃げて、私と同じような制服を着てあなたを知ってる人に助けを求めて。絶対にここに戻ってはダメ。早く逃げて』
「待って、待って、どうして」
『菅原篤樹という男子生徒に会えれば一番いい。でもとりあえず、この服を着てる人なら助けてくれる』
「待ってよ、そんな、お姉ちゃんは、どうするの」
『桜灰を倒さなきゃ。行って』

嫌がる雅火を無理矢理帳の向こうへと押し込む。お姉ちゃん、と叫ぶ彼女の声は、庵里、と叫ぶ桜灰の声に掻き消された。

意外と早かったね、と庵里は桜灰を見据えて言った。桜灰は庵里を睨んでいる。人を睨んでも美しいとは美人は得である。

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作者名:籠目 | 作成日時:2021年2月8日 23時

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