霧村の交流会 ページ2
『篤樹ー。そろそろ遅刻するよー。さっさと出てこーい』
京都校に一人の少女の声が響く。彼女の名前は霧村庵里。長い黒髪は高い位置で無造作に結ばれている。彼女が呼んでいたもう一人の男子生徒は、鞄を引き摺りながら歩いてきた。
「まだ遅刻にはならないだろ。あと一時間遅くても余裕だって五分前にも言ったよな。東京に行くって言ったって交流会だろ。はしゃぎすぎ」
『うわ。口煩い男は女の子に嫌われるって凪先生に言われたでしょ。嫌われたいんだ』
「うるせえよ。あと、斎先生の言葉の半分は冗談だからな。全部真に受けるな」
「おいこらそこの二人。さっさと行かないと観光する時間がなくなるだろうが」
「だから交流会だって何回言えば分かるんすか」
篤樹と呼ばれた男子の言葉を完全に無視して、庵里と凪は東京の観光雑誌を眺めている。
篤樹は大きなため息を一つついて、三人分の荷物と共に彼女らのもとへ歩きだした。
「つか、観光したいなら早く行かないと時間ねえだろ」
『篤樹も結局観光したいんじゃん。素直じゃないなあ全く』
「は?」
心底嫌そうな顔をした篤樹は、凪によって頭を叩かれた。
この学年一の可哀想な生徒は間違いなく彼である。もっとも、学年一とは言っても今は二年二人だけの学年であるから、庵里ではなく彼が苦労人になるのは当たり前のことではある。庵里と凪の行動に振り回されてばかりの彼は、そのうちきっとストレスで禿げると、庵里は思っていた。禿げに悩みだしたら育毛剤でも買ってあげようと密かに考えながら彼女は篤樹を振り回す。
東京での観光を終えて、高専に近付くにつれて庵里の機嫌は悪くなっていく。先程まであんなにも騒いでいたのにも関わらずだ。篤樹と凪はそんなことにはお構いなしに進んでいく。置いていかれると迷子必至のため、彼女も同じ速度で進むのだが、そうするとどんどん高専が近付く。
彼女が高専に行きたくない理由は主に二つ。
一つは慣れない場所に行くと必ず迷うから。もう一つは彼らとあまり仲がよくない自覚があるから。
『やっぱり私も行かないとだめ?篤樹だけでもなんとかなるって』
ふざけんなよ、と篤樹は叫んだ。
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作者名:籠目 | 作成日時:2021年2月8日 23時