Eighty-three ページ37
再度ゆっくりと開かれた瞳の虹彩は、美しい緑ではなく深い青。
「本当に、ありがとうございます、公爵。俺の我が儘を聞いていただけ……ッ!!!!」
表に出た途端、襲いくる激痛に彼は顔を歪めた。
身体の内側から命を貪り食らわれているような、そんな酷い痛み。
幼き頃に経験したようなそれに、青年は吐き気を催した。
口からごぼりと溢れ出るそれを止める方法を彼は持ち合わせてはいない。
バッキンガムはこのような状態をずっと一人で耐えていたというのだろうか。
両膝を付き、少量の胃液と大量の血液を吐きつつも何度も何度も出てくる酷い咳。
「なんだ？ 答えられぬというのか？ 異邦の者よ」
無様にも床に膝を付けて咳き込む彼に、アーサー王は不思議そうに尋ねた。
じっと見据えてくる瞳に、言葉を何度も伝えようとするが咳が邪魔をしてうまく紡げない。
本の少しでいい、少しだけでいい。
ただ一言の言葉を紡ぐ時間だけがほしい。
「！」
突如、自分の意思とは関係なく身体が勝手に動き始めた彼は右手で左手の手首を掴んだ。
瞬間に本の一瞬だが咳は止まった。
あぁ、最後まで本当にありがとう公爵。
咳が止まった瞬間に、青年は努めて穏やかな表情を浮かべて玉座に座る麗人に向けて言葉を紡いだ。
「アルトリア、──────……」
満足そうに笑った彼は目を閉じる。
ふらりと力なく後ろに倒れると、淡く青く光る粒子を残して王の間から消え去ったのだった。
何もなくなったそこに残るのは、彼がいた痕跡である血溜まりのみ。
それ以外はいつも通りの静かな王の間であった。
円卓の騎士がただ一人しかいない、王の間に。
「……王、あの者と知り合いだったので？」
やり返してやりたい気持ちをぐっと堪え、ただ二人のやり取りを静観していたアグラヴェインがアーサー王へと尋ねた。
じっと彼がいた場所を見据えていた獅子王は首を横に振るう。
──未来で、また会おう。
「……いいや、知らないな」
否定した彼女の表情はどことなく穏やかに見えるのは、窓より入りし日の光のためか。
それとも──。
最果てにて光を放て。完
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 8人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
翔べないペンギン(プロフ) - 爆死なうさん» コメントありがとうございます。そういただけますと大変嬉しいです。拝読いただきありがとうございました。 (2021年2月16日 8時) (
レス) id: 968bf19702 (このIDを非表示/違反報告)
爆死なう - 素敵な作品をありがとうございました。 (2021年2月15日 0時) (レス) id: baaad41788 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：翔べないペンギン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時：2020年12月6日 18時
