Fifty-eight ページ11
そして戻った途端。
誰も自身を見ていないとわかった瞬間に、彼は崩れ落ちた。
水を作る日々の最中に少しずつ片付けをしていったため、床は綺麗だ。
その綺麗な床の上で両膝と左手を付き、荒い息を繰り返しながら苦しそうに服の上から心臓部分の押さえ、苦痛を耐え偲ぶ。
身体は燃えるように熱く、じりじりと内側から壊されていくような感覚をバッキンガムは感じていた。
公爵、と身体の持ち主が心配げに問うが答えてあげられるほどの余力が。
「やっぱりな」
「！」
咄嗟に聞こえてきた誰かの声に弾かれるように背後を振り返れば、なんとも言えない表情のアーラシュがそこにいた。
「だいぶ無茶してるな、バッキンガム」
「……いいや。無茶はしてないさ」
「言っただろ、俺は目が良いって。俺の固有スキルに千里眼っていうのがあってな、あんたの身に何があったのかはよぉく見えるよ」
「……」
取り繕う言葉を考えようとして、やめた。
千里眼という能力は過去・現在・未来を見通す。
アーラシュの千里眼がどういったものかは知らないが、何か言ったところで彼はバッキンガムに何が起っているのか知っているのだろう。
四つん這いの体勢から壁に背を預け、アーラシュを見ればどうするんだと問われる。
「何も、しない。レディ・静謐の毒がどこまで強力なのかは知らないが、持たせられるところまで持たすつもりだ」
「あんた、このままだと本気で近々死ぬぜ？」
冗談抜きで告げるアーラシュに苦笑いを一つ。
「それは困るな。私は彼の頼みを聞かねばならないのでね」
「なら誰かに頼るなりなんなりしたらよかったじゃねぇか」
「ははは、仰る通りだよペルシャの大英雄。だが、藤丸やレディ・マシュ、そしてベディヴィエール卿や百貌のには心配を掛けたくなくてね……」
困ったように笑えば、大きく溜め息を吐くアーラシュは背後にあとは頼んだぞと一声掛けていた。
まさかアーラシュ以外に誰かいるとは思っていなかったため、いったい誰がと目を剥く。
「何が心配を掛けたくない、だ。馬鹿者が。毒に掛かったというのならさっさと言わんか」
アーラシュの背後から現れたのは、この村の長である百貌のハサンである。
クラススキルの気配遮断により、いることがわからなかった。
相変わらず白い仮面で表情は隠れているが明らかに怒気を含んだ言葉に、バッキンガムも目を瞬いたのちに肩を竦めて降参のポーズをとった。
あぁ、どうやらもう少しだけこの地に現界できるようだ。
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翔べないペンギン(プロフ) - 爆死なうさん» コメントありがとうございます。そういただけますと大変嬉しいです。拝読いただきありがとうございました。 (2021年2月16日 8時) (
レス) id: 968bf19702 (このIDを非表示/違反報告)
爆死なう - 素敵な作品をありがとうございました。 (2021年2月15日 0時) (レス) id: baaad41788 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：翔べないペンギン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時：2020年12月6日 18時
