【WT】そのメイド、純黒につき。＜前編＞

第１４話　その幹部、受け止められる。 ページ17

触覚を失った。加減が分からなくなった。触れるだけで物を破壊してしまうような、馬鹿みたいな力と入れ替わるように。
過去どれだけ力を入れてもベッドを破壊する事なんてできなかったのに。俺は、怖くなって部屋に引き籠もるようになった。専属も俺から辞めさせたから、嫌味や俺の悪口を言いまくってるのも聞いてしまって、それをきんときが処分したらしい。
また誰かを傷付けるのが怖くなってしまって、ベッドから降りるのも、正直怖くなってしまった。無意識に振り払った腕の先で、嫌な音を立てた。あぁまたやってしまった。

「私には、痛覚がありません。ですがコレは同情ではございません」

俺の払った腕を片腕で受け止めているメイドがいた。片目だけ出た顔の表情は変わらず、片腕に黒い何かを纏わせて、受け止めていた。
触覚を失った俺に、先回りするように言葉を続けたメイド。ティミスの代わりに昼飯を運んできたコイツは、今年の新人らしい。
黒い髪に黒い目はきんときから通信魔法経由で聞いた、初日に兵士の一人と戦って勝った噂の新人で、きんときに制限の魔法を掛けられた無所属の新人メイドの特徴と一致した。

「じゃあ、なんで来たんだよ」

そっぽを向いて問いてみれば、当たり前だと言わんばかりに言葉が返って来る。

「仕事だからでございます。“過剰接触禁止”と、きんとき様には命じられておりますが、仕事として会うのはどうやら良いみたいで」

昼食ですと差し出された皿には、綺麗に並んだサンドウィッチ。そっとつまんだとしても、潰してしまうオチは何度あったことか。自分の意志に関係なく、ぐちゃぐちゃにしてしまった料理はもう食べたくない。

「要らない。潰す」
「……口に運びますか」
「お前、肝が据わってるって言われない？」
「きんとき様を始めとして、変なヤツとは言われますが」

この歳になって、あーんとか、あいつらに見られたら永遠にネタにされる。絶対あいつ等には言うなよって釘刺して、このメイドの厚意を甘んじた。
それからこいつが俺の担当になる日は、こうやってメシを食うことになった。時々加減する感覚を教えて貰いながら。

「久しぶりに、ちゃんと食べたわ」
「お好きなものがあれば、お運びいたしますので」
「さんきゅ」

第１５話　その幹部、驚く。→←第１３話　そのメイド、代行する。

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