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月に向かって手を伸ばせ_5 ページ48

「だ、ダメなんだよ。外だし、みんなの前だし、あんなの絶対ダメなの。でも、その、でもね」
「……でも?」
「弥勒くんに、『俺の』って言われたの、……う、嬉しかった」
「……!」

 がばりと、今度こそ弥勒は完全に身を起こした。その勢いにびっくりして、彼女も弥勒へ顔を向ける。赤い、と思った。暗がりの中でもはっきりわかるほど、赤面している。

「……Aさん」
「は、はい」
「キスしてもいいですか」
「そ、外はダメって言ったばかりだよね!?」

 む、と弥勒は不服そうに口をつぐんだ。確かにそうだ。ここで同じ過ちを繰り返して、また彼女に注意されても良くない。いくら人気が無いからとはいえ、そういう問題ではないのだろう。

「……だったら、そんな可愛いこと言わないでくださいよ」
「か、かわっ!?」

 落とした呟きには彼女がもっと照れればいいと思いを込めていた。案の定目を丸くした表情に、弥勒は今すぐ触れたくてたまらない。けれど、我慢する。唇を奪わなくても、弥勒に見せるこの表情で十分だと思ったから。
 今ならわかる。この顔は、以前の関係では決して見ることのできなかった表情。――きっと、恋人である弥勒にしか見せない、彼女の素の一面。
 きゅ、と唇を結んで、彼女は再び顔を逸らした。

「こ、ここじゃダメだけど、……家まで送ってくれた後なら、いいよ」
「それって」

 ちら、と彼女の瞳がこちらを向く。いてもたってもいられなくて、弥勒は立ち上がった。心がそわそわと落ち着かない。ああ、本当にらしくない。そんなことはわかっているけれど、それでも。

 大抵のことは努力でどうにかできると思っていた。自分の先を走る人々との差は、自分の力で縮めていくものだと信じていた。それは今でも変わらない。しかし、努力ではどうにもならない差というものもある。例えば、年齢。年上は一生年上のままだし、年下は一生年下のままなのだ。
 けれど、歳の差を埋める方法が、一つだけあるとするならば。

 弥勒は彼女にそっと手を差し伸べた。そんな弥勒を見上げ、彼女ははにかんだ笑顔を向ける。それから、彼女もまた弥勒に向かって手を伸ばした。大小のまるで違う二つの手が重なり、一つの影を地面へ落とした。
 ――月の綺麗な夜だった。


月に向かって手を伸ばせ



 ちなみに野目くんが元に戻ったのは、弥勒たちが去ってから三十分後だったらしいです。


(おわり)

ハッピー・スイート・バースデー!(悠太)→←月に向かって手を伸ばせ_4



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設定タグ:B-project , 夢小説 , 短編集   
作品ジャンル:アニメ
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雪村 百合 - まほしさん» いえいえ!私もクドイ事を指摘してしまったかと少し不安だったのですが、そういって頂けて良かったです。 なるほどアニメでは『野目』呼びがあったんですね。私もまだまだ勉強しなければいけませんね…。お返事ありがとうございました! (2019年2月17日 11時) (レス) id: 6a1ddaa5c5 (このIDを非表示/違反報告)
まほし(プロフ) - 雪村 百合さん» 細かなところまで目を通していただけてありがたい限りです。今後もよろしくお願いいたします。 (2019年2月12日 0時) (携帯から) (レス) id: 2cdb666f4d (このIDを非表示/違反報告)
まほし(プロフ) - 雪村 百合さん» コメントありがとうございます。呼び方に関してはネットで纏めてくださっているものを参考にしていますが、アニメでは「野目」呼びがあったようです。愛染くんのことなので時には名前で呼んでいるかもしれませんが。 (2019年2月12日 0時) (携帯から) (レス) id: 2cdb666f4d (このIDを非表示/違反報告)
雪村 百合 - 健十はメンバー全員の事を名前で呼んでたきがします!なので最後の健十のところは『野目』ではなく『龍広』かと…((へんな所にめをつけてしまいすいません…)) (2019年2月11日 14時) (レス) id: 6a1ddaa5c5 (このIDを非表示/違反報告)
トゥンクももたすトゥンク - あしゅは俺じゃくて僕の方がイメージしやすいし安心するwww (2018年11月27日 11時) (レス) id: a10801537f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まほし | 作成日時:2018年6月27日 20時

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