Tweedia_4 ページ35
ああ、そうか。あれは全部、夢だったんだ。
それならそれでいい。でも、と俺は片手をみぞおちあたりへ移動させ、ぎゅっと服を掴む。なんだかまだこの辺りに泥のような何かがこびりついているような、そんな気持ち悪さが残っていた。
はあ、と息をついた俺を「愛染くんっ」頬から指を離したAがやけに嬉しそうな顔でぐいっと覗き込んできて、
「誕生日おめでとう!」
一息に告げられたその言葉は、あまりに唐突だったんだ。
「……へ?」
「へ、て何。そんなびっくりすること? 今日は八月三十日、愛染くんの誕生日ですよ。へへ、おはようより先に言いたかったんだあ」
してやったりと笑う彼女を、俺はただぽかんと眺める。――そのとき突然、さっき夢で見たあのワンシーンが、目の前のAへと重なった。
『誕生日、おめでとう』真っ赤なルージュに彩られ、優美に微笑む着飾ったA。
『誕生日おめでとう!』今しがた、エプロン姿で俺を覗き込み、えらく嬉しそうにそう不意打ってきたA。
俺はまだ目を覚ましたばかりでパジャマ姿だ。そりゃそうだ、ベッドから起き上がってすらないんだから。前髪だって整える間も無かったし、顔も洗っていない。どう考えたって、夢の中の方が数百倍はカッコいい俺だった。
待ってくれよ、と思った。こんなの突然すぎるだろ。ありえない。まだ髪も梳かしてないんだよ。こんなんじゃ、夢で返したみたいにカッコよく『ありがとう』なんて言えるわけがない。
「……ふふっ」
「ん?」
だけど、何でだろうな。
不意を打たれた驚きから脱した後、知らない間にふつふつと湧き上がってきた笑みが口の端からどんどんぽろぽろこぼれてくる。
「ふふふ、っはははは、あははははっ!」
「う、わっ!?」
ああ、なんだ。そういうことか。
見上げたAに手を伸ばし、問答無用でベッドの中へと引きずり込んだ。そら、不意打ち返しだよ。びっくりしただろ? 腕の中にぎゅうと閉じ込めて、全身ふるふる揺らしながら俺の笑い声は一層大きくなっていく。止めようにも難しく、何なら止まらないだろうという予感があった。だから無駄な抵抗なんてしない。感情が昂るのに任せるまま、Aを強く抱きしめて、体をくの字にしながら尚も笑った。はは、おかしいな。バカみたいな声しか出てこない。何だこれ。何だよこれ。
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雪村 百合 - まほしさん» いえいえ!私もクドイ事を指摘してしまったかと少し不安だったのですが、そういって頂けて良かったです。 なるほどアニメでは『野目』呼びがあったんですね。私もまだまだ勉強しなければいけませんね…。お返事ありがとうございました! (2019年2月17日 11時) (レス) id: 6a1ddaa5c5 (このIDを非表示/違反報告)
まほし(プロフ) - 雪村 百合さん» 細かなところまで目を通していただけてありがたい限りです。今後もよろしくお願いいたします。 (2019年2月12日 0時) (携帯から) (レス) id: 2cdb666f4d (このIDを非表示/違反報告)
まほし(プロフ) - 雪村 百合さん» コメントありがとうございます。呼び方に関してはネットで纏めてくださっているものを参考にしていますが、アニメでは「野目」呼びがあったようです。愛染くんのことなので時には名前で呼んでいるかもしれませんが。 (2019年2月12日 0時) (携帯から) (レス) id: 2cdb666f4d (このIDを非表示/違反報告)
雪村 百合 - 健十はメンバー全員の事を名前で呼んでたきがします!なので最後の健十のところは『野目』ではなく『龍広』かと…((へんな所にめをつけてしまいすいません…)) (2019年2月11日 14時) (レス) id: 6a1ddaa5c5 (このIDを非表示/違反報告)
トゥンクももたすトゥンク - あしゅは俺じゃくて僕の方がイメージしやすいし安心するwww (2018年11月27日 11時) (レス) id: a10801537f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まほし | 作成日時:2018年6月27日 20時