《B-PROJECT》みじかいゆめ9

やきもちパズル_2 ページ14

「それからここで腕を上げて、ステップはこう！」
「成程」
「これは、なかなかの難易度、ですね」
「でもその分、決まればすっごくかっこいいだろうね！」

　ようし、と不動くんは早速見様見真似でリズムを取り始めた。けどすぐに足がもつれたみたいで、体のバランスを崩してしまう。見てるこっちがひやりとしたけど、こけることはなく、不動くんはなんとか踏みとどまって「あはは」と頭を掻いて笑った。

「うーん、確かに難しいや」
「ようし、俺もやってみる！ えーっと、こうで、こーで……とわっ」

と、試してみた遙日くんもやっぱりバランスを崩しちゃったみたい。きゅっと、シューズが床にこすれる音が高く響いた。

「このステップ、ハルでも簡単には出来なさそうだね」
「むーっ。先生、もっかいやって、もっかい！」

　日中のロケ仕事を終えた後、キラキンのみんなはマンションに戻り、地下に設置された一面鏡張りのスタジオで、ダンスの先生から新しい振り付けを教わっていた。
　というのも、こないだ歌番組の収録があったにも関わらず、また一週間後には別の番組で別の曲を披露する予定になっているからだ。Bプロの中では後発組とはいえ、近ごろ格段に知名度が上がって来て、テレビ出演の機会も増えてきているキラキン。そんな中、仕事終わりのレッスンまでこなすみんなを少しでもサポートできないかと、わたしも事務所に戻らずキラキンについてここまでやってきたのだった。
　先生の見本をもう一度じっくりと観察し、各自で動きを確認していく。先生は次の予定があるらしく、もう帰らないといけないらしい。「ありがとうございました」とあいさつをした後、わたしは邪魔にならないよう壁に沿って立ち、みんなを眺めていた。

　きゅ、きゅ、とみんなのシューズが床にこすれる音がいくつも重なって聞こえてくる。さっきまであんなに感情豊かだった遙日くんの顔も、いつしか真剣そのものだ。何度か繰り返してみるけれど、同じところでつまずいてしまうみたい。そのたびに顔をしかめ悔しそうな表情になるんだけど、あ、れ。……何だろう、今の顔。いつもの遙日くんと、ちょっと違う気がした。
　弾む呼吸を整える遙日くんを、鏡越しにじっと見る。違和感を感じたのはほんの一瞬だった。遙日くんは考え込むような顔になり、小さく手でリズムをとり始めた。頭の中で振り付けのイメージをおさらいしているように見える。

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