《B-PROJECT》みじかいゆめ3

いつかのためのバースデイ_1（弥勒：誕生日） ページ40

早く早くと焦って腕時計を眺めてみたって、電車の速度は変わらない。
出先での仕事が思ったよりも長引いてしまって、気がつけば定時もとっくにオーバーし、茜色が空を彩りはじめていた。

本当はあと一時間は早く帰れるはずだったんだ。だけど少しトラブルが起こってしまって、対処に時間がかかったんだ。いつもなら仕方ないなで済ませるけれど、今日ばかりはちょっと勘弁してほしい。

弥勒くん、まだ待ってるかな。
こんな時間だから、もうキラキンのお祝い始まっちゃってるかもしれない。

なんたって今日は、弥勒くんの、誕生日。
普段から煮物をおすそ分けしてもらったり(かなりの絶品)、筋トレに付き合ってくれたりと、日ごろから仲良くしてもらっているから、なんとか会って用意したプレゼントも渡したいんだけど…
約束をしていたのは事務所で、時間はきっかり一時間前。今から駅についてダッシュで戻っても、もう誰も残っていないような時間になってしまうだろう。

はああ、と深くため息をついて、弥勒くんごめんなさいと心の中で呟いた。
せめて連絡が取れたらいいんだけど、色々と対応に追われている間に携帯の充電が切れてしまってそれも叶わない。バッテリーは事務所に置いて来てしまっていた。何やってるんだわたし。
もう一度ため息をつけば電車が目的の駅に到着したから、資料も置いてこないといけないし、急いで事務所に戻って携帯充電して、弥勒くんに謝らないと。そう思って、ドアの前に移動し、開くのを待つ。


＊＊＊


事務所の窓を見てみても、さすがに明かりは灯っていなかった。茜色から次第に暗くなりはじめた空。裏の通用口へと回り、鍵を取り出す。彼らが済むマンションの方向に視線をやって、小さく呟いた。

「ごめんね、弥勒くん」
「そうですね」

がちゃりと鍵を差し込んだところで聞こえた返事に、わたしはぴしりと固まった。え、今の声？不機嫌そうな低い声は、聞き覚えのあるもので。

「遅くなるならそう一報入れてくださいよ」
「へ…」

やっと振り向けば、事務所の周りに植えられた木にもたれかかっていた彼がこちらを見る。すらりと伸びた長い手足、短く切りそろえられた前髪。

「弥勒くん？」
「それ以外の誰に見えるんですか。ていうか、ここにいるのにも気づかないなんて」

やっぱり葛城さんってちょっとドジですよね。年上相手にも物怖じせずずけずけと言ってくる辺り、間違いなく弥勒くんだけど…

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