《B-PROJECT》みじかいゆめ3

そこに触れるのは俺だけでいい_1（健十） ページ37

「ねえねえAさんっ」
「葛城さん、どうですか？」
「おお、ありがと。見た目もキレイだねえ」

あの外国帰りの双子は、気に入った相手にはまるで小動物のようにすぐに懐いてしまうんだ。
夜の撮影まで時間があった。空いた時間は好きにしていいと言われて、悠太も剛士もどこかへ出て行った事務所の一室には、俺とAとの二人きりだと思ったのに。
「おつかれさまでーす！」「お邪魔します」と後輩の遙日と唯月が入ってきて、あれよあれよと机に向かっていたAに群がったのだ。

俺は少し離れたところに設置してあるソファに座って、今度取材を受ける予定の雑誌のバックナンバーを広げていた。二人が入って来たときもちらりと視線を投げかけて、すぐに雑誌に目を戻す。まるで気にしてなんてないよとソファにゆったり座り直し、ぺらりとページをめくった。

双子が「差し入れです」と持ってきた箱に入っていたのは、色とりどりのマカロンらしかった。「愛染さんもどうですか」と唯月に聞かれたけど、甘いものは控えてるからと断れば、予想されていたのだろう、それ以上の追及は無く。

「このマカロン専門店、まだ開店して間もないんですけど、結構話題なんです」
「そうなんだ？」
「そーそー。いっぱい色があるけど、全部野菜の色素を使ってるらしいっすよ。すごくない？」

雑誌に目を落としながらも耳だけは三人の会話にどうしても傾けてしまう。

「今日は午前中ヒマだったんで、唯月と並んで買ってきました！」
「でもこれ、THRIVEへの差し入れでしょ？わたしが一番に摘んじゃうのもなあ」
「大丈夫です。葛城さんがいつも頑張ってるところ、知ってるから」
「Aさんに食べてほしくて買ってきたってのもあるんだよ？お好きなのどうぞっ」

…本当にあの二人は、気に入った相手にはすぐに懐くんだ。とりわけ年上に甘えるのが抜群に上手い。まるでお世辞めいた言葉だけれど、この双子の口から出てくればただのまっすぐな台詞にしか聞こえない。

「…ありがと、ゆづくん、はるくん」
「いえいえ」

見なくたってわかる。Aは今、頬を緩めて嬉しそうな表情を浮かべていることだろう。「わああっ、美味しいっ」次に聞こえた声で、Aがマカロンを摘んだのだろうとわかった。

「よかった〜」
「一人3つずつ買ってきたので。あと愛染さんの分もあるし」

ん、と自分の名前に思わず反応して視線を向ければ、丁度こっちを向いたAと目線が絡む。「いいの？」「…どうぞ？」小首を傾げて聞いてくる彼女に一言だけ返し、また雑誌に目を落とした。

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