今はそれだけ_2 ページ23
熱に浮かされ、夢かうつつかもわからないほどベッドの中でぼんやりと過ごしていた。鼻がつまり、荒い口呼吸の音が自分の耳にも届く。このまま寝てしまえば、明日の朝には治ってないかなあ…。
「おい、A!」
と、玄関の鍵が勢いよく外され、ドアが開く音と共に、そんな声が聞こえた。
ああ、この声は、間違いない。来ちゃったか、と苦々しく思う中に、来てくれたことへの喜びも混じっていた。
荒っぽく廊下をどたどた進み、わたしの横になっている部屋へと入って来たのは、
「ごうし」
「お前……馬鹿野郎っ!」
紅い瞳を鋭く向けて、彼はわたしに怒鳴った。
「やめてよ、病人相手に」
横になったまま、そんな剛士を見上げる。ぎり、と歯が軋む音が聞こえた。拳がぎゅっと握られている。ごめんね。こころの中でそうつぶやいた。
「なんで言わねえんだ、風邪ひいたって」
「こうなるから、でしょ」
剛士にかからないよう反対を向いて咳をしてから、再び剛士に向き直る。
「帰って、剛士」
「ああ?」
「剛士まで風邪ひいたら、大変でしょ。剛士がいたってなんにもなんないんだから、帰って」
我ながら、冷たい言い方をしたと思う。
「……っ」
剛士はわたしの言葉に驚いたように一瞬目を丸くしたけど、すぐにぎゅっと眉根を寄せて瞳を歪めた。普段の自信満々な表情を見慣れていると、なんだか今の剛士は泣き出してしまいそうな、そんな悲しい顔をしているように見えた。
「俺が、いたら」
その表情のまま、いつもより低い声で剛士が口を開く。
「邪魔か?」
反射的に、そんなことないと言いそうになる。本当はそんなことはないのだ。一緒にいてくれるなら嬉しいし、折角会えたのに帰ってほしくなんてない。剛士と話していたら、しんどい気分も紛れる気さえする。
けど、万が一にもうつってしまったら、大変だから。
今日じゃなくたって、会える日はあるはずだから。
そう自分に言い聞かせて、わたしは努めて冷静な声で言う。
「邪魔じゃないけど、ここにいたって風邪が治るわけじゃないんだから、いてもしょうがないでしょ」
また、咳が出る。わたしは反対を向いて、そのまま剛士に背中を向ける。
「わかった」
ぽつりと、剛士が呟く声が聞こえた。
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速水ヒロcv前野智昭love♪(プロフ) - 面白かったです!!ごうちん格好いい(*´∀`) (2018年7月10日 21時) (レス) id: 5e287a4c41 (このIDを非表示/違反報告)
織目亜華璃 - 帝人が!帝人が〜〜〜!ヤバイデス!!トゥンク!! (2017年4月29日 14時) (レス) id: cd6be38c23 (このIDを非表示/違反報告)
彩乃 - まほしさん» ですよね…!!はい、また携帯買ったらお知らせ致します(笑) (2017年2月27日 18時) (レス) id: 39f7ff3018 (このIDを非表示/違反報告)
まほし(プロフ) - 彩乃さん» Twitterって公式非公式いろいろ情報入ってきて楽しいですね。機会がありましたらぜひ〜^^ (2017年2月21日 23時) (レス) id: 98138b6672 (このIDを非表示/違反報告)
彩乃 - んんBプロプラス素敵ですね…!!!Twitterはまだ携帯持っていないので見るしかやってませんが、その内お話したいなぁ、とか…() (2017年2月20日 12時) (レス) id: 39f7ff3018 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まほし | 作成日時:2017年1月16日 13時