花束にキスをして (ページ26)

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受験生の日々は忙しなくて、季節がいつもより足早に過ぎていくように感じる。

あっという間に受験の山場だと言われる夏休みが来て、毎日顔を合わせていた田中とは会わなくなった。

一年、二年の頃だったら、もしかしたらどこかへ遊びに行こうなんて、そう言えたのかもしれないし、言ってくれたのかもしれない。

とはいえ、それに対してどうこう感じる暇もなかった。やらなきゃならない事が山積みだから。

いいんちょー
明日何してる ?

塾に籠りっきりの生活を続けていたある日、家に帰る途中に振動したスマホが知らせてくれたのは、久しぶりの田中からの連絡。

明日、って。これまた、随分と唐突な。

塾に居るけど

どんな誘いであれ、何が何でも、断ろうと決めていた。そうじゃないと、私は。

夜、ここ来て

返事をしてトークを閉じてスマホを握り締めながら彼の次の言葉を待つこと、数分。

送られてきたのは、何の説明にもなってない簡潔な言葉と、位置情報。

想像していたものと違っている返信に拍子抜けしつつ、仕方なく位置情報のリンクをタップする。

何、どこだよ、ってしばらくマップを指で動かしてから、ハッとした。

( …花火大会 )

勉強漬けの毎日ですっかり頭から抜け落ちていた。
明日は、ここら辺じゃ有名な、そこそこ大きい花火大会があるんだ。

行けないよ

揺らぎそうになる感情を必死に抑えながら、震える指で画面上に文字を並べる。

あの田中が、花火大会に誘ってくれた。私と一緒に花火を見ようって思ってくれてる。その事実だけでもう十分だ。

断った所で、彼が他に行く相手が居ないなんてことは有り得ないし。

大きく息を吐いて、吸ったところで、ぴこん、と浮かんだ文字に、また呼吸が止まりそうになった。

待ってる
いいんちょーが来るまで、ずっと

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