決別 ページ33
｢偽物が蔓延るこの社会も｣
｢徒に力を振りまく犯罪者も──粛清対象だ｣
｢全ては正しき社会のために｣
｢贋物｣
｢正さねば、誰かが血に染まらねば｣
｢英雄を取り戻さねば。｣
｢来い、来てみろ贋物ども。｣
｢俺を殺していいのは──本物の英雄だけだ｣
その時、誰もが気圧され、動けなくなっていた。
ただ貫き通されようとする"信念"の前に。
ただ── 一人を除いて。
誰もが動けない中で、一人だけ悠然と、赤い布を風に揺らしてステインに近づくものがいた。
｢なんだ、あれ……?!｣
長い金色の美しい毛並みが、風に揺れる。
突然現れた車大の獣は、尻尾をゆらゆらと揺らしてステインへと近づいた。歩く度に、みしりと音を立ててアスファルトにヒビが入る。
｢狼……？｣
それはステインの前で高らかに──吠えた。遠くへと伸びていく遠吠えが、辺りの空気をビリビリと震わせる。ヒーローの何人かが、気圧され腰をすくませて地面に倒れる。
それから、狼は優しくステインの傷へと舌を這わせた。ぱたぱたと尻尾を振りながら、何か願掛けのように。飼い主に戯れ付く犬のようにも見えた。
ステインの威圧感も──そして獣から発される殺気で動けなくなっていたヒーロー達は、ただ黙ってその異常な光景を見ていた。
それからその狼はすぐに傷を舐めるのをやめ、そうして瞬間的に消えた。否、姿形を変えた。
狼の大部分が霧のように消え、その中から現れたのは──
｢傷在り?!｣
驚きの声をあげた緑谷が、ステインの正面に立つ傷在りの名を呼んだ。
彼女はそんな声に耳を貸さず、ただ先程の獣と同じ、長くて綺麗な髪を風に揺らした。
それから、もう気絶しているステインの首に巻かれた布を手に取りながら一言一言、泣くように語りかける。
その表情は、ヒーロー殺しによく似ていたが、年相応な柔らかい表情をしていた。
｢約束する｣
｢貴方の信念を、今度は私が貫く。｣
｢この世界を正して──貴方の代わりに私が血に染まる。｣
｢だって私は──師匠の弟子だから｣
｢だから、私がやること全部終わらせたら──約束通り、ちゃんと私を殺して｣
ステインの首に巻かれた布を自分の首に巻き付け、そう告げる。そうしてから自身の着ていた黒い汚れたパーカーをステインの体にかけた。
それは決別で、おそらく彼女なりの覚悟だ。
そうして全てを終えるまで会わないという、決意でも、約束でも、あるのだろう。
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漱(プロフ) - マリイさん» コメントありがとうございます！私自身もステインが好きなのでなにか思いついたらまた書こうかなーと思っております！ (2018年9月22日 20時) (
レス) id: 7bc15f0ad8 (このIDを非表示/違反報告)
マリイ - また血染さんの小説書いて欲しいです血染さんに依存してます (2018年9月22日 18時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)
漱(プロフ) - ミリイ(灰崎信者)さん» コメントありがとうございます。私も大好きです……！ (2018年8月18日 20時) (レス) id: 7bc15f0ad8 (このIDを非表示/違反報告)
ミリイ(灰崎信者)(プロフ) - ステイン様凄く大好きです 好き過ぎて辛い (2018年8月18日 15時) (レス) id: 99fc6b4eef (このIDを非表示/違反報告)
漱(プロフ) - 黒にゃんさん» コメントありがとうございます！楽しんでいただけたのなら幸いです！ (2018年7月1日 22時) (レス) id: 7bc15f0ad8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：漱 | 作成日時：2017年6月27日 19時
