綺麗で歪なとんぼ玉が一つ。 ページ2
パソコンに向かい、カタカタとキーボードを鳴らせる。職員室の隣にあるレッスンを行う部屋からは楽器の音が聞こえる。今はどうやらI♡Bが使用中のようだ。軽快なキーボードの音や皆を見守るかのように演奏するドラム。そしてボーカル。綺麗な声がここまで届いてくる。
思わずその曲__未来ファンタジスタを少し小声で歌いながら作業を進めていく。あっ。いきなり音が途切れてしまった。どうやら練習交代の時間のようだ。
次の練習グループは、とデスクの隅にある1週間分のスケジュール表をチラリと見る。2時〜4時のグループはどうやらArSらしい。すぐに色んな騒音が聞こえてきた。虎彦君が暴れまわっている証拠だ。
いつも騒がしいArSの中にも静かな人はいる。楽君とアキヲ君だ。あの2人は騒ぐ事自体得意じゃなさそうだし。
そうこうしていると職員室の扉がガラリと音を立てて開いた。彼は私が言葉を発するより早くに声を出した。
「プ、プロデューサー…ちょっと、いい？」
「うん、いいよ？今日はどうしたの？」
「お菓子…買ってきた。プロデューサー疲れてるよね、少しは休まないと……」
そう言って隣のアイルさんのデスクの椅子を私のすぐそばに持ってきて座る彼。こうなったら何を言っても聞かないだろう。大人しく座って待つとしよう。
彼は袋の中をゴソゴソと漁りチョコ菓子やらスナック菓子やらグミやらクッキー……などなどを袋から出すと照れたように笑った。いや、こんな量をよく買ったなあと感心するほどだ。
「プロデューサーがどんなお菓子食べたいか分かんなかったから、いっぱい買ってきちゃった。あ、安心してね…ちゃんと全部食べるから」
余ったら皆でお菓子パーティーでもするよ、と今度は苦笑するアキヲ君。いやはやそれにしてもどれも私の好きなお菓子しかないような。まあ、気のせいか。それにアキヲ君がこんな気をきかせてくれたんだしお言葉に甘えとかないと。
「アキヲ君、ありがとう。でもレッスン行かなくていいの？今日は確かダンスレッスンだよね？」
「う、うん……そうだけど、昨日頑張って居残り練習した分、休んでもいいかと思って。あ、居残り練習したのはほ、本当だよ…！」
「分かってるって。アキヲ君努力ができる子だから。……確かに…アキヲ君は休んだほうがいいかもね…」
「な、何か言った…？」
「ううん、何も」
そう言って彼に向かって微笑む。あれ？何かおかしい……彼は、こんなに。
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作者名：ウェルカム | 作成日時：2020年1月27日 17時
