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漆拾弐 “〃 (4)” ページ31

桟橋の先端の方で彼が座ると横をトントンと叩いて座る様に促されたので私も座った。
足首辺りまでなら海に届くらしく、冷たい様な温い様な温度の水が少し火照った私の身体を冷ましていく。




「水平線と夕陽が善く見える。時間を忘れそうな景色だ……」


『そうですね』




私はこの景色に見覚えがある。
之も嘗ての仲間達との記憶の一部_つまり前世での夏季休暇の時に見た景色と全く同じだった。
そして今、作之助さんが云った言葉は私が修治に云った言葉である。



彼等は今何をしているのだろうか。
彼等にとって最悪の形で私が居なくなった世界では最高の友のままで居ることはもう無理なのだろうか。
……私の事など気にせずに昔みたいに笑いあって話す事も、もう無理なのだろうか。


若し私が修治か炳五の立場だったら無理だっただろう。
抑も、子供達が死ぬ前日の夜のバーでした会話、あれが全てを物語っていたではないか。
私が、彼の_炳五の言葉を無理矢理遮ったじゃないか。


心の何処かでは少し期待していたのかもしれない。
たとえ組織が違えど、世間一般的な正義と悪で敵対していようと……又皆で呑めるのではないかと、笑い合えるのではないかと……



いつの間にか下がっていた視線の先にぷかぷかと綺麗な赤い扶桑花(ハイビスカス)が浮かんでいた。
桟橋に飾り付けられていたのか、はたまた風で飛ばされたのか……理由は何でもいいが兎に角綺麗だった。
今迄に見た事が無いぐらい綺麗な赤だった。




「A」




海に浮かんでいた扶桑花を避けるように足で海を堪能していると名前を呼ばれた。
そして其方に目をやると頭に何かを乗せられた?……否、付けられた??




『作之助さん?之は……』


「扶桑花だ」




あぁ、扶桑花か……じゃなくて、何故それを私に付けたのか知りたかったのだが……
首を傾げている私の頭を、扶桑花が落ちない程度に優しく撫でられる。




「何となく似合うと思った。白い髪に赤い扶桑花が善く映えて迚も綺麗だ」


『ふふっ、ありがとうございます』




一体彼は何処からその扶桑花を取り出したのか知らないが嬉しい事に変わりは無い、後で押花にでもしよう。


私を見て、ふっと微笑んだ作之助さんは再び視線を海の方へ戻した。
そんな彼の瞳は夕陽に照らされて、今目の前に広がる景色と同じ色をしていた。
海に浮かぶ扶桑花に負けず劣らず綺麗な色をしている。




『作之助さんの目は綺麗ですね。この景色によく似ています』

漆拾参 “〃 (5)”→←漆拾壱 “〃 (3)”



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黒龍(プロフ) - Mさん» 嬉しいお言葉、有難う御座います^^ (2019年11月23日 17時) (レス) id: 9b97ad947e (このIDを非表示/違反報告)
M - とてもおもしろかったです。 (2019年11月23日 1時) (レス) id: 5a0fa58d7d (このIDを非表示/違反報告)
黒龍(プロフ) - りーこさん» 有難う御座います!頑張って続き書いていきますね (2019年6月24日 12時) (レス) id: 9b97ad947e (このIDを非表示/違反報告)
りーこ - 続きが楽しみです (2019年6月24日 6時) (レス) id: 140e75a81a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒龍 | 作成日時:2019年6月21日 21時

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