第8色 慢心 ページ14
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クリスマスのご馳走はアリルが体験したことがないほど盛大で、豪華で、喜びと驚きに満ちていた。
朝昼晩と、こんなに豪勢な食事をしたことはなかった。七面鳥やベリー類を使った料理で腹を満たしたアリルは、ウィーズリー四兄弟とハリーと共に雪合戦をして遊んだ。
こんなに楽しいクリスマスは初めてだった。
──夜。
杖にはめこまれた宝石を握って、鏡の前で透明になれたかを確認する。
うん、問題ない。
アリルはスキップでもしそうなほどウキウキして、でもフィルチに見つからないようそっと、城を出た。
禁じられた森は静かだった。
「こんばんは、
「こんばんは、ロナン。メリークリスマス」
「今夜は金星が長く見えていたね」
「うん。早く帰るよ」
ケンタウルスのロナンがアリルを出迎えてくれて、妖精たちの棲む場所まで案内してくれた。今夜の星の話ができてアリルは嬉しかった。
妖精たちはアリルが来るとキャッキャと甲高い声を上げ、服の中へ潜り込んでくる。
アリルはウィーズリー家の特製セーターを着て、マフラーを巻いているから暖かいのだ。
「メリークリスマス、みんな」
しばらく妖精たちとなんでもない話をする。
ピクシー妖精に直接抗議しようと思っていたが、今朝のアリルの行動によって、姿を現さなくなってしまったらしい。
はあ、と息を吐く。
なんだか悪いことをしている気がしてきた。
『もう帰るの？』
「うん……図書室に行こうかと思って」
『あら、あら！』
『まあまあ！』
『アリルがヒトになっちゃった！』
妖精なりのジョークなんだけど、ちょっとうんざりする。そもそも自分はヒトだってば。
「じゃあ、次はイースター休暇かな」
『もっと早くおいでなさいな！』
『そうよ、もっとたくさんおいでなさいな！』
『いっそここに棲めばいいのよ！』
「怒られるよ……」
アリルは服や髪の中から出ていかない妖精たちを捕まえてつまみ出し、杖を握りしめて来た道を戻る。
途中で、銀色の液体を見つけた。
知っている。これは、
「ユニコーンの……」
血。
ぞわりと背筋に何かが這った。
ユニコーンは強い生き物だ。彼らを傷つけられる魔法使いなんてそうそういない。
一人で森に来るなんて、危険だったのかも。
アリルは禁じられた森に一人で入れるという自信が、単なる自分の慢心であったと理解した。
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作成日時：2020年3月19日 16時
