×××のプロローグ。 ページ5
◇
SHRで担任の無駄に長いお話を聞き流して、
週末に向けて出された宿題の量に文句を言って、
教室の掃除をだるっと終えて、
友達とカラオケで歌いまくって、
そんな、なんてことのない放課後。
時刻はもう20時を回っていた。
いくらカラオケが盛り上がったとはいえちょっと遅くなりすぎだ。
さすがに電話しておくかと連絡を入れれば、心配性な母からの小言が降ってきたのでむりやり電話を切る。
もう高校生なんだからそんなに騒ぎ立てる程のことでもないだろうに………と若干ウンザリしつつも、街灯の少ない通りはやっぱり少し怖い。
夕暮れ時よりも陰影がずっと深く、そこかしこの暗闇に何かが潜んでいるような気配を感じてしまう。
点々と灯る街灯の光から光へ綱渡りをするかのように、少しばかり早足になって家への帰路を急いだ。
＿＿＿チリンっ
澄んだ軽い音が静かに鼓膜を揺らしたと思えば、夜の中から
唐突に現れた影にたたらを踏む×××を他所に、それは足の間をすり抜けて夜闇へと紛れて消えていく。
振り返れば真っ暗な住宅街があるばかりで、小さな鈴の音はチリﾝﾁﾘﾝ…とその音を遠くしていきやがて消えた。
ふくらはぎにうっすら残る柔らかい感覚、しなやかな黒い毛並み、そしてあの音＿＿＿
｢なんでネコがこんな夜に…？｣
ネコは夜行性だから時間帯は問題じゃない。
問題は、”こんな静かな夜にあんな速さで、なにを急ぐことがあったのか“だ。
ネコの飛び出た方向へじぃと目を凝らしてみれば、建物の隙間に細い道が見える。
ネコ同士の喧嘩でもあったのだろうか。
人に追いかけ回されたのだろうか。
それとも＿＿＿ 暗闇に潜む”何か“に出くわしたのだろうか。
怖いもの見たさの好奇心に任せて一歩二歩と踏み出し、数台の室外機にとおせんぼされた路地裏を覗き込む。
暗闇が広がっていると思われたそこにはほのかな明かりがあった。
ゆらり。
孤独を思い知らされる暗闇の中から見たそれは、酷くやさしく魅力的だ。
×××は魅入られるまま室外機を乗り越え、路地裏へと歩を進めていく。
◇
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