“元”及川先輩のファンです【花巻貴大】

35《買い出し》 ページ35

(Aside)



私がバレー部の臨時マネージャーを任されてから、今日でだいたい二週間。

段々と仕事にも慣れてきて、水泳部との両立もうまくいき始めた、そんなある日。


「〜♪」


そよそよと風が吹いてくるのが心地よくて体育館の外の階段でひとり鼻唄を歌いながらビブスを畳んでいると、唐突に声をかけられた。


「まーつうーらちゃん」

「は、ひゃいッ」


油断していた私は謎の奇声をあげ、慌てて立ち上がる。

そこでニコニコしている及川先輩が「やっほ」と右手を上げた。


「な、なんでしょう」

「あのさ、そろそろ買い出し行きたいんだけど、リストって作ってくれた？」

「あぁ、はい……！」


買い出し。


そっかぁ、買い出しも行かなきゃ行けないんだよね。

ビブスを畳む手を止めて、よっこいしょと立ち上がる。


そういえば数日前にリストを作って、確かあの辺に……。


「いつ買いに行けばいいですか？」


カゴからリストを探しながら訊くと、及川先輩はさらっと「あぁ、俺らが行くからいいよ」と言った。


え？！ 買い出しってマネージャーの仕事じゃないの？！


いや、仮にもマネージャーを引き受けたんだから、これは私がやるべき。
水泳部の買い出しもあるし、ちょうどいい。


「私、行きます。ちょうど水泳部の買い出し、行かなきゃいけなくて」

「……それ、尚更俺たちが行った方が良くない？ 大変でしょ？」

「いや、いいんです！ 交通費もかかっちゃうし……」



正直言うと、大変、だけど。

これで 大変です、なんて言ったら「やっぱり俺らで行くよ」なんて言いそうだな。遠慮して、少しだけ黙り込む。

そんなことをしていたら、有り難きお言葉が聞こえてきた。


「今日この後で良ければ俺、空いてるんだけど。一緒に行こうか？」

「……ぇ、そ、れは……」


お願いします、って言うべき？

いや、買い出し先でもしファンの皆さんに遭遇したら……！

多分、命はない。いや、冗談じゃなくて。結構本気で。


「……ごめんなさい、今日は他の予定があって」


断ってしまった。

及川先輩は「そっか〜残念」と謎の発言をして、腕を組んで悩む。


「じゃー誰に頼もっか……」


なんで誰かに頼む前提なんですか……！


本当にひとりで行けるので、と言おうと思って口を開きかけたその時。


及川先輩の背後をたまたま通りすがった花巻先輩が、「よ、何話してんの」と及川先輩に話しかけた。

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