“元”及川先輩のファンです【花巻貴大】

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(矢巾side)


浜嶋さんの話題が一段落したあと、部室は沈黙に包まれた。


マネージャーとしての浜嶋さんの存在はとても大きくて、いないと本当に大変で。

夏には帰ってくると信じてなんとか耐えていた俺達だったけれど、その良くない知らせを聞いて、ぷつりと何かが切れてしまったのだ。

三年生は俺ら二年の何倍も、ショックを受けているのだろう。


部室の空気が重い。


いつも騒がしい三年が、誰も、一言も発さない。


困ったように眉を下げた及川さんが小さくため息をついたのを、俺は部室の隅で黙って見ていた。



◇



「花巻さんの名前を教えた代わりに、って言ったら、代償としてはちょっと重すぎるんだけどさ」


ちゃんと前置きをしてから、小さく深呼吸。

微かに頷いて、「なぁに？」と顔を覗き込んでくる松浦。


あぁ、やっぱり可愛いな。


こんな時でもそんなことを思ってしまう自分を、心から殴りたい。


「数ヶ月だけ、マネージャーやってほしい」

「……へ？」


私？、とその指で自分の顔を指す。

頷くと、彼女は「でも」と口を開いた。


「来週から水泳部の活動が本格的に始まっちゃうから、難しい、かも。ごめんね」


……そっか。


そんな言葉は、声にならなかった。


心のどこかで少しだけ、引き受けてくれるんじゃないかと期待していた俺がいたから。


水泳部が本格的に部活始めるの、もっと遅いと思ってた。


失敗した。

なんかフラれた気分。


それ以上話題を見つけられないまま、教室に担任が入ってきて、「矢巾、前向けよー」と注意されてしまった。

返事もせずに体の向きを変える。



「……ごめんね」


担任が話し始めた後、その声に掻き消されそうなほど小さく聞こえた彼女の声に、ぎゅっと心臓が締め付けられた。



……なんで謝んだよ。




___________



◇浜嶋 沙波
青葉城西高校三年生
バレー部マネージャー(休部中)

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