“元”及川先輩のファンです【花巻貴大】

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(花巻side)


ぱちり。



視線がぶつかったかと思えば、すぐにふい、と目を逸らされてしまった。

そのまま何か友達に向かって喋り、にこにこしている。


俺のことを見ているのかと一瞬思ったけれど、それから全く目が合わなくなったところを見る限り、やっぱり彼女の目的は及川らしい。



ま、そうだよな。


ギャラリーに部活を見に来るのは、八割が及川のファン、あとは国見とか松川とか岩泉が目的だ。


及川のことを見にきた女子と目が合うなんて、今までにも沢山あったはずだ。

なにも、及川のファンがずっと及川ばかりを見ているというわけでも無いだろう。



適当な結論をつけて、準備体操にとりかかる。


ちらりとギャラリーを盗み見れば、彼女の視線はやっぱり及川を追っていた。




……俺、なんでちょっとがっかりしてんだろ。



◇



アップが終わって、一年がコートにモップ掛けをしている間の休憩時間。

ホワイトボードの前で今日のメニューを確認して「げ、」と声を漏らした矢巾とちょうど目が合ったので、ちょいちょい、と手招きする。


矢巾が人差し指で自分の顔を指し、首を傾げた。


お前だよ、早く来い。

そんな意味を込めて、大きく頷く。


矢巾は不思議そうな顔をしながら、ゆっくり歩いてきた。


「何すか？」

「お前さ、あそこの女子知ってる？」


気持ち抑え目の声で、流石に指は指せないので、目線だけ送る。

俺の視線を追った矢巾は、「あぁ、はい」と頷いた。


「あの二人組っすよね？ 知ってるも何も、同じクラスなんで」

「うそ、マジ？」

「……マジ、ですけど」


部活くらいなら知ってるかな、と思って適当に呼んだ矢巾が、まさか同じクラスだったとは。

矢巾を選んだ俺、ナイス。


そうと知った瞬間に、沢山の訊きたいことがぶわっと溢れ出してきた。


名前は？

部活は？

どこ中出身？

彼氏とかいたりすんの？



「……名前とか、分かる？」


まずはやっぱり名前からだろ。

そんな安易な考えから、とりあえず矢巾に彼女の名前を訊ねてみる。


「え、と、どっちの……」


あ、そっか。二人いんのか。

片方にしか意識の向いていなかった俺は、必死に特徴を探す。

髪型……は大体一緒だな。身長もそんなに変わらない。



後になって考えれば、「右」とか「左」とか言えば良かったんだと思う。

でもこの時の俺には、そんなことを考える余裕なんて無かったのだ。






「んーと、可愛い方」

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