痛みを一針 ページ1
「天使が動き出したぞ」
ぽつりとその一言が落とされ、誰もが息を呑む。
紫の髪をたなびかせた彼女───ベアトリーチェは、じっと耳を澄ませる。
「───おい、『奴』だ。奴がいるぞ!!『終末』を告げる鐘を持ってる!!!」
それを皮切りに、地獄は大きな歓声に包まれる。
ある悪魔は喜び、ある悪魔は驚愕し、ある悪魔は不安げに。
彼女の鋭い聴覚には毒であったが、それも気にならない程度にはベアトリーチェの心も粟立っていた。
「…終末。終末だよぉ。聞いた?終末だってぇ…!あは、楽しいねぇ…嬉しいねぇ…!」
鮮血の如く濃い真っ赤な双眸を、悪意に塗れたハイライトで輝かせる。
ニィ、と頬を引けば、口元からは刃とも形容させる牙が覗き出した。
───今こそ好機。
あの大嫌いな天使共に報復を与える機会であるのだ。
1人、また1人と悪魔たちが飛び立つ。
その中には、ベアトリーチェがよく見知った姿もあった。
金髪の悪魔や白髪の悪魔、銀髪の悪魔に茶髪の悪魔…多くの背中は既に地底から離れていた。
「さぁて…僕も行くとしますかぁ…。…あは」
羽を広げ、ドレスの裾を翻し、ヒールを鳴らして空を舞う。
地上へ地上へ、手を伸ばした。
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