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「わ、その、自分でできますから!」

「拭いたる」



逃げようと体を仰け反らせるが彼はそれを許さないというように、しっかりと私の頭を抱えた。

その距離の近さと強引さにじわじわと頬が赤くなる。

時折頬に触れるヒヤリとした手に、この熱が伝わりませんように、なんて無意味な願い事をした。



「……よし、これだけ拭けばええやろ」



ようやく離れた手に名残惜しさを感じつつ、頬の熱が伝わらなかったことに安堵する。

俯いたままお礼を言えば彼は自分の頭を拭きながら、ん、と簡単な返事をした。

その姿を横目に熱を冷まそうとパタパタと自分の顔を手で仰ぐ。

ざあざあと勢いよく降る雨はまだ止みそうにない。



「……雨止みませんね」

「え」



降りしきる雨の中、タオルを首にかけた北さんが、呟く。



「わかるやろ、意味」

「えっと、確か……」



言いかけて、ふと気づく。

思わぬ北さんの発言に思わず息を飲めば、コクリと音がした。

冗談なのか、それとも本気なのか。

彼の言葉からは本音を伺うことはできない。



“もう少しそばにいたいです”



「……傘、買うて帰るか。ここで待っとき」

「え」

「送ったる。傘一本で済むしな」



タオルを鞄にしまった彼は甘い空気をぶった切るように、いつもの調子でそう言った。

待って、だってそれってつまり、相合傘になるのでは。

しかも今の流れの後で。

こんがらがった思考回路のままじゃ彼を止めることもできず、コンビニに入った北さんの後ろ姿をただただ眺める。



「……嘘でしょ」



声が出たのは数秒後。

固まったまま、1人呟いた。



___________________________



「帰るか」

「あ……ハイ」



雨はかなりの大粒だったようで開かれたビニール傘がぼてぼてと音を立てた。

一瞬迷った後、彼の隣にお邪魔する。

バレー部の中ではあまり高くはない身長だけど、北さんが持つ傘の位置は私よりもずっと高くて、そこに背の差を感じた。

肩がぶつかる程近い。

緊張のあまり、うまく息ができない。

どこを見ていいわからず、歩くたびにぱちゃぱちゃと跳ねる水だけを見ていた時。



「前見て歩き」

「あ、はい」

「それと帰ったらちゃんと体あっためる事」

「……北さん、お父さんみたいなこと言うんですね」

「一つしか変わらへんやろ」

「例えの話です」



−−−今思えば、それは彼の優しさに触れた時に始まったのかもしれない。

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作品ジャンル:アニメ
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作者名:ビーーグル | 作者ホームページ:https://odaibako.net/u/chichichi1208  
作成日時:2018年10月29日 23時

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