最愛的白昼夢【赤 葦 京 治】

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夏とはいえ夜は少し肌寒い。

半袖を着ている彼女に寒くないかと問えば 大丈夫 と笑われた。


「寒かったら言って」

「うん、ありがとう」


…この、大きな目を細めて笑う顔が好きだ。

少しピンク色になる頬も笑うと見える八重歯も全部、全部好きだ。

夜、手を繋ぎながら他愛ない話をするのが最近の俺達マイブームだった。


「…今日は満月だね」

「うん、綺麗」

「Aは星が好きなんだっけ？」


こんな感じの話をしながら、宛てもなくブラブラと歩く。

ただ……最近よく変な目で見られるんだ。

それも彼女と、A話してるだけなのに。

俺は 気にしなくていいよ って笑うのに、彼女はなぜか泣いていた。


「…赤葦、ごめん。ごめん、なさいっ…」

「…なんでAが謝るの？」

「違うの、ごめっ……ね…」


必死に涙を拭う小さい手を握る。

冷たくて真っ白な肌。

人形みたいだねって言葉を一度だけ、言ったことがある。

その時彼女は ありがとう って笑ったんだっけ。


「…なんで泣くの？俺は気にしてないって」

「ッ……ねぇ、も、わかってるんでしょ？」

「…なにが？」


…珍しく、感情的な彼女をただただ見つめる。

溢れる涙は地面にシミを作り、静かな空間には彼女の嗚咽だけが響いた。


「赤葦はっ…もう、わかってるはずだよ」

「言ってくれなきゃわかんない」

「ううん、わかってる。わかってて、まだ縋り付いてるんだ」


目を擦り震えた声でそう言う彼女は、今にも消えてしまいそうで。

咄嗟に手を伸ばし肩を抱いた時…


初めて、拒絶された。



「…やめて」

「…A？」

「ねぇ、元に戻ってよ。ちゃんと現実見てよ！そりゃ、私だってもう一回赤葦に会えたのは嬉しいよ…嬉しいけどッ……

私はもう……死んでるんだよ？」

「…なに言ってんの？Aはここに存在してるだろ」


ちゃんと存在しているし、会話だって、触れる事だって、出来るじゃないか。

なのにもう死んでる？

冗談はやめて欲しい、なら俺は今なにを見てなにと会話してるというのか。


「…この前、病院に行ったんでしょ」

「あぁ…ほぼ強制的にだけどね」

「その時、先生になんて言われた？」


俺を見上げるAはもう、泣いていなかった。

真っ直ぐな目で俺を見つめ答えを待っている。


「なんてって……」


確か、俺があの日に言われたことは……


__最近、大切なもの、大切な人を亡くしましたか

__はい

__やっぱり……貴方、


“白昼夢を見ていますね”

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