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胸下まで伸びていた髪の毛をバッサリ切った。
生まれて初めてのショートカットは結構評判が良く、朝、教室に入るなり友達に褒めてもらえたことで少しだけ気分が良くなる。
最初は不安しかなかったけど、これだけ褒められるなら切ってみてよかったのかもしれない。
そう思いながら席に着いたとき。
「えっ」
明らかに動揺した声が降ってきて、思わず声がした方を見上げるとマフラーをしたままの黒尾が目を丸くして立っていた。
たっぷり5秒溜めた後、彼が続ける。
「……一瞬誰かわかんなかった」
「あー、それ多分黒尾だけじゃないと思う」
「だよな」
マフラーをほどきながら席に着いた黒尾を横目に、肩よりも少し上で揃えてもらった毛先を弄る。
顔の横に毛先があるなんて今まで経験したことがなかったから、この長さに慣れるのには少し時間がかかりそうだ。
そう思っていた時、横から伸びてきた手が横髪をすくう。
言うまでもなく、相変わらず立派な寝癖をつけた彼の手だ。
「すげー切ったな。なんで切ったの？」
「なんでって言われても……うーん……気分？」
その問いかけに首を捻りながら答えれば、笑みを含んだ声でなんだそれ、と返された。
取ってつけたような理由なんてすぐにバレる気しかしないし、本当に理由があったわけじゃないからそう答えたのに。
「でもやっぱだいぶ雰囲気変わるよな」
「変？」
「いや？いいんじゃねーの。俺はそっちも好き」
そっちは、じゃなくて、そっちも。
そんな言葉とともに離れる手。
つくづく思う。
この男は本当に、本当にどうしようもないと。
「……そう、ですか」
何気ない一言に顔が熱くなるのは、その言葉が少し照れくさかったから。
髪が長ければ俯いて隠せるのに。
そう思い、髪を切ったことを少し後悔した。
「おやおやぁ？顔真っ赤ですけど？」
「……外寒かったからじゃない？」
「耳も赤い」
「だから、それは……」
外が寒かったから。
これこそ取ってつけたような理由だけど、今はそれどころじゃなくて。
「素直に照れてますって言えばいいのに」
「……素直に言うものじゃないでしょ、それ」
こっちは照れ隠しをするので精一杯なのに、彼の表情はいつもと変わらない。
その余裕綽々な態度、腹が立つ。
なんて言ったらまたからかわれるだろうから、心の中で毒づいた。
あぁもう、本当、勘弁して欲しい。
あっさり心を奪うくせに、本人にその気はないなんて。
___この猫、要注意。
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作者名：ビーーグル
| 作成日時：2018年12月7日 22時
