とあるバリトンサックス吹き

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大好きな部活を終えて友人達と一緒に帰路につく。途中まではみんなと同じ道。
やがて私一人になった。 帰りたくもない家に向かう足取りは重たくて仕方がない。

『…ただいま』と小さく呟いて家のドアを開ける。中は色んな物が散乱していて酷い状態だった。
ああ、また喧嘩してるんだ。そんなことをぼんやり考えて、怒られない様音を立てずに二階の自室に向かった。

自室に戻ると、ぱたんとドアを閉じ机に突っ伏した。両親が不仲なのは今に始まった事じゃない。
もう10年以上このままだ。互いに互いを嫌うあまりその間に偶然生まれてきた私の事を汚物でも見るかの様な目で見ている。ぶんぶんと頭をふって嫌な思いを追い出すと、愛用している楽譜ファイルを開いて今日の合奏のおさらいを始めた。

荒んだ家庭で育ったけど、ひとつだけみんなと同じことがある。音楽が大好きだということだ。昔から、歌ったり楽器を演奏したりすることが大好きだった。今はそのおかげで絶対音感がついた。明日は学校のテューバでどんな風に吹こうか、なんて考えていたらドアをこじ開けて母親が入ってきた。

今日は母親が負けたのだろう、血走った目をしている。何をしているんだ、なぜ帰ってきたんだ、と支離滅裂な事を叫びながらこっちに近づいてくる姿に恐怖を覚えた。思わず後ずさりする私の右耳を、母親は思い切りひっぱたいた。空気が破裂する様な音がして、焼け付く様な痛みが走る。その途端、今まで我慢していた色んな物が弾けとんだ。私はパソコンとお財布だけをお気に入りのリュックに詰めて、まだ何か叫んでいる母親から逃げる様に家を飛び出した。

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