36 ページ36
✱
「でもね」
ふと顔を上げた彼女の目は薄く光っていた。月の光によって見えた錯覚なのか、あるいは。
「ほんとは、私大人になりたかったの」
ズキリと胸に強く鋭い衝撃を感じる。痛くて痛くて、彼女の強い意志が眩しくて、目を背ける。
なんで、『なりたかった』なんだよ。どうしてまだ生きてるのに、過去形なんだ。苦しい、モヤモヤとした霞。──あれ、でも俺は、
「ママみたいな、孤児院のお母さんをやりたかったの。大きくて、温かくて──幸せなおうちを、みーんなに」
話し方がさっきよりも幼いように感じる。夢を語っているからなのか、懐かしいとでも思っているのか。
「なら、来いよ。一緒にみんなで逃げよう」
ああ、無茶だ。エマの言葉をそのまま口にしてみる。絶対に無理だと思いながら。
「だめ。わかってるでしょ？ レイ──私にまでそんなこと言わなくていいよ」
手を、振り払われたような気がした。実際に手を差し出したわけでも、本心から言ったわけでもないくせに。
「──ああ。ぶっちゃけ年長組の俺らだけなら勝算はある。だけど.....」
「新入りのキャロルを含めて39人。大半が年少者。これから未知でしかない外へ行くのに、あまりに手が足りない。
第一、夜泣きをする赤ちゃんは？ 敵にすぐ見つかってしまう。それに彼らが鬼から逃げきれるほどの体力があるかわからない.....課題ばっかりだよ」
でも、そう言って手を差し伸べてくれるエマが、私は大好きなの。
Aは苦しそうに、でも心の底から大好きで仕方ないというような声を出した。
「無茶で無謀で。家族みんなが大好きで、大切で。優しいエマが、大好き.....レイも、そうでしょ.....？」
ズラズラと喋った彼女は、将来の夢を口にした時と随分雰囲気が違う。その違いに、魅せられたような気になって、ぐっと目に力を入れる。
「ああ。俺も.....みんなが好きだよ」
こんなこと言うのはらしくない。でも、本当のこと──こんな俺でも、好きだと言っていいのならの話だが。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 142人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
菫の花(プロフ) - みみずさん» まさかそこまで題名を賞賛されるとは思いませんでした…笑 ほんとほんと、複雑ですよね！笑 んー美術部の子だったりそういう子ばかりですからねー そうですね、控えましょう！はい、また話しかけさせていただきます！ありがとうございました(*^^*) (2019年4月14日 14時) (
レス) id: b66ba73815 (このIDを非表示/違反報告)
みみず(プロフ) - 菫の花さん» あ、なんかこれ以上続けちゃうとチャット？として違反対象になってしまう(?)みたいなので、ここからは控えさせていただきます...泣 良かったらTwitterかボードでもまたお話してくださると嬉しいです！ (2019年4月14日 7時) (レス) id: 11e4509994 (このIDを非表示/違反報告)
みみず(プロフ) - 菫の花さん» それであの題名力...！強すぎます!!菫の花様にそう言って貰えるともう嬉しくて涙出ます.....！(?)もう死んでもいいわ...(昇天) なるほど...！そうなんですね...！絵が上手い子多いって複雑ですよね笑 菫の花様を上回るとは一体...(( はい、ありがとうございます！ (2019年4月14日 7時) (レス) id: 11e4509994 (このIDを非表示/違反報告)
菫の花(プロフ) - えぇぇ！ありがとうございます、私もみみず様の絵がとても大好きです!!余りというか全然ですねー周りに絵が上手い人が多かったりその友達自身がお世辞とか言うタイプじゃないので…それはそれは良かったです！ (2019年4月13日 20時) (レス) id: b66ba73815 (このIDを非表示/違反報告)
菫の花(プロフ) - みみずさん» そ、そうですか？私も題名決めるの苦手ですし語彙力や文章だってきっと他の人よりはまだ幼いのでないと思いますよ…でも、みみず様に言われるとやる気出ます！みみず様も充分ありますよ！こちらの題名だって充分魅力がありますし文章だって素晴らしいですもん… (2019年4月13日 20時) (レス) id: b66ba73815 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みみず | 作成日時：2019年3月21日 21時
