野球少女、テニスにシフトチェンジしました (ページ32)

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30話ページ32

｢あー気にしないでいーよ｣

桃城｢いや、気になるだろ｣

そんな深い理由があるわけじゃねーんだって

どう乗り切るかな(((

詰め寄ってきそうな勢いの桃をスルーしつつ、なんというか悩んでいた時だった

着信音が静かなバスに鳴り響く

音は落としてあったものの、周りが静かだからか余計に大きく聞こえる気がする

こんな時間に誰だろうか

｢…寿くん…？｣

何かあったのだろうか

こんな時間にかけてくるなんて思いもしなかった人だ

とにかく出るべきだよな

しつこい桃を黙らせて、画面をスワイプし、耳に当てる

｢…もしもし寿くん？｣

佐藤『Aちゃん、久しぶりだね』

どこか雰囲気が違う気がする

｢うん、久しぶり。それでどうしたの？｣

佐藤『…Aちゃん、吾郎くんが海堂高校からスカウトが来てるの知ってるよね』

…海堂高校からのスカウトの話か

確かに兄さんの所に来ていたけれど、兄さんは断っている

でも多分寿くんには関係ないことで

あの日、両親に置いてきぼりにされた寿くんを、引き取り育てている祖父母のために、スカウト、すなわち特待生として海堂高校に入ろうとしていた事は知っていた

きっと今の寿くんは焦ってるんだろう

｢…知ってるよ。でも父さんが追い返した｣

佐藤『…どうして、吾郎くんは…』

小さすぎて何を言っているのか、聞き取れない

けれど行き場のない怒りを兄さんに向けていることだけは分かる

｢寿くん、寿くんなら大丈夫だよ。｣

佐藤『…でも、僕は吾郎くんとは違うんだ』

｢そんなの当たり前だよ｣

｢寿くんと兄さんは違うんだよ｣

｢でもね、データだけが全てじゃない｣

｢兄さんはまだ成長できるし、それは寿くんもおんなじでしょ｣

｢大丈夫、寿くんならきっと海堂いけるよ｣

｢スカウトがダメだったなら、今度は学校のスポーツ推薦だってあるでしょ？｣

｢それに、兄さんは感情的になるけれど、寿くんは冷静に対処できるし、指示も的確｣

｢兄さんには出来ないことだから｣

佐藤『…Aちゃん…』

｢本当はね、兄さんと寿くんが一緒のチームで戦うのがいつか叶うといいなって思うよ。あの頃みたいに、さ｣

なんて、夢のまた夢だけど

佐藤『…ありがとう、こんな時間にごめんね』

｢ううん。大丈夫だよ。｣

それじゃあ、という声の後しばらくして通話終了の音がする

寿くん…あまり追い詰めないといいけれど…

兄さんと寿くんは、いいライバルなんだから…

寿くんを認めてる人はいるのにな…