5 ページ6
食事というより、宴だった。皆が笑顔でお父さんの思い出話をしてて、酔った人が暴露みたいなことしてて、段々気まずくなって、抜け出した。番長と一瞬だけ目が合ったけど、何も言われなかった。
『はぁ……』
ズキズキと痛む頭にこめかみを抑える。
何がお悔やみ申し上げます、だ。結局は皆、お父さんが死んだことなんかどうでも良くて、お酒が飲みたかっただけだった。
『何なん、それ…』
「……実はね、わしのヒーローじゃった」
『えっ』
いつの間にか隣にいたのは、貴浩くんだった。ストン、と隣に座り、んふふと笑った。
T25「聞きたい?」
『うん』
話している貴浩くんは、懐かしそうにしていた。まるでアルバムを見ながら話しているような。
お父さんはピッチャーなのにクリーンアップに入っていたとか、今の自分のバッティングフォームはお父さんの真似だ、とか。
最後にこう言った。
T25「何で、実が死なにゃあいけんかったんじゃろうか」
抱きしめられた。何も言えなかった。しばらくした後、頭を撫でながら言われる。
T25「あがいなところじゃ、泣けんよね」
『パパは……ううん、お父さんは、”自分に出来る事をやりにいく”言うて、そのまま帰ってこんかった』
段々と鼻の奥がツンとしてきて、声も湿り気を帯びてきた。貴浩くんの手は頭に乗ったままだ。
『お父さんは優しいけぇ、おおかた、お年寄りの人やらの非難をてごしとったんじゃ思う。この先、もしお父さんに命を救われたって人に出会うたとき、私は素直に接することが出来ん気がする』
貴浩くんは、そやね、と言った。
T25「わしもそうかも知れん……でも実は、そがいな人じゃけぇ」
2人して、しばらく声をあげて泣いた。はたから見ればカオスな状況だったに違いない。
『ちゃんと泣いてくれんさったの、貴浩くんと番長だけ』
お互い真っ赤な目が合い、どちらからともなく笑い出した。
貴浩くんの笑顔が可愛くて、カッコいいなって思ったり。ドキドキしてるのは、きっと気のせい。
T25「泣いて泣いて、実の分まで歩きださにゃあね」
前を向かなきゃいけないと思った。3日後には、横浜に戻らなきゃいけない。お父さんは自分に出来る事をやって、命を落とした。
じゃあ。
私に出来る事って、何?
384人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
きまぐれ(プロフ) - リュカさん» リュカさん!ありがとうございます! (5月22日 16時) (レス) id: 43ec8f9ef2 (このIDを非表示/違反報告)
リュカ(プロフ) - 応援してます! (5月19日 17時) (レス) id: 56c473763c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きまぐれ | 作成日時:2023年5月14日 10時