青いエンジェル (ページ5)

今日:140 hit、昨日:203 hit、合計:65,134 hit

4 ページ5

夜が深くなっているのをひしひしと感じていた。東北の3月は真冬同然だ。
結局お兄さんは、あれからずっと私と一緒にいてくれて、今も隣で寝ている。

18「もしもし」

『番長…パパが、帰ってこん』

18「…今から行くから、そこで待っててね」

『番長も、パパどこに居るか知らんの？』

18「うん、ごめんな」

『いいよ…待ってます』

鼻の奥がツンとした。

ちゃんと寝なさいね、って言われたけど、正直寝れない。
ずっと応援歌を口ずさんでた。

『戦うぞ闘志みなぎらせて勝利の海行くぞベイスターズかっとばせーミノル』

「…好きな選手の応援歌？」

『起こした？』

「起きてた」

お兄さんも野球をやっていて、憧れている選手がいるらしい。

「菊池雄星さんっていう選手と、山﨑実さんっていう選手。この2人は僕の目標なんだ」

まさか、ここでお父さんの名前が出るなんて思ってなかった。

『…パパ、凄いんじゃよ。どがいなに忙しゅうても、私と一緒にキャッチボールしてくれるんじゃ。面白いお話えっとしてくれるし、私のお話笑顔で聞いてくれるの』

せき込むように一息で言ったものだから、お兄さんはびっくりした顔になった。しばらくの間のあと、絞り出したような声で言った。

「Aちゃんのお父さんって、山﨑実さんなの……？」

『うん』

「ねぇ、僕が尊敬してること、言って欲しいな」

『……いいよ』

お兄さんは、お父さんに会いたいとは言わなかった。

＊＊＊

遺体が見つかっていない中、葬式をした。
たくさんの人が来て、お悔やみの言葉をかけてくれた。でも、皆神妙な顔をして黙っているだけで、ほとんどの人は泣いてくれなかった。だから、泣きたくても泣けなかった。

18「この後は食事だから、いたくないなら少し席を外していなさい」

番長の目には、一杯の涙が溜まっていた。

18「……実から、託されたんだ。”Aちゃんをよろしく”ってね」

そう言って頭を撫でてくれた手は、大きくて、頼もしかった。

『……よろしく、番長』

ここが私の、人生で1番のターニングポイント。