青いエンジェル (ページ26)

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『まぁ、もうええか。私が色々言わんでも、分かってるじゃろ？』

21「そら、な」

『………かましてこい、昇太』

そう言い、昇太のお尻をはたく。

21「よぉく見とけ、女子野球日本代表の山﨑A」

『おう！』

悠平さんがぎょっとしてこっちを見たけど、すぐに行ってしまった。

凄いなぁ。
いつも隣で軽口叩きあってる彼が、決勝のマウンドに立っていた。
すごいすごいって思ったけど、それってどれくらい凄いことで、どれだけの運命のめぐりあわせかは分からない。
…でも、凄い、それしか言えない。
今、この1球1球に、日本の未来がかかってるんだなって。
1回を難なく抑えた昇太は、そのまま2回に向かう。
対する打者は、ターナー。

『うわお…WBCホームラン数トップか…』

すっごいね、世界のトップオブトップが集まる大会で、そんなにホームラン打つなんて。

『あっ』

上手く掬われた。確信歩きを見せるターナー。二次関数のような曲線を描いて、白球はスタンドの上段に入った。昇太は一瞬だけ目を眇めるような仕草を見せたけど、また前を向いた。
"U・S・A！U・S・A！"
割れんばかりのUSAコール。
でも、昇太はこの状況でさえも自分のエネルギーに変えてしまうことを、私は知ってるから。
だからブルペンに戻って来た昇太に、わざと励ましの声をかけなかった。

『おつかれ』

21「おう、おつかれ」

『甘かったね。打ってくださいみたいな逆球』

21「それ。あれは反省だわ」

2人して、不思議と焦りがこみあげてくることはなかった。
きっと、彼らがやってくれることを、頭のどこかで分かっていたのかもしれない。

8回ウラ。

16「うっす」

ブルペンには翔平さんの姿。

『行くんですか？』

16「ん、行く」

『…頑張ってください』

なんだか急に、翔平さんに色々言うのがおこがましくなって、結局それしか声をかけなかった。
まさに、"大谷で始まり大谷で終わる"。彼による、彼の為の大会みたいだ。

世界一を手にするその瞬間にマウンドに立つべきは彼なんだと、世界中の人がそう思ってたに違いない。