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バスの段差に気を付けゆっくりと降りると、やっぱりあまり見たことのない景色。
(まあ、たまにはこういうのも気分を一点させるにはいいかもしれない。)
ヘッドフォンをかけ直し、また音楽を流して俺は歩き始めた。
たまにふわっと不安定に頭の中に浮かんでくるメロディ。
スマホをそっと取り出し、作曲アプリを立ち上げメモをする。
「ミンくん？」
ふと呼ばれた名前。
メモも途中ながら声の方に顔を向ければ、よく見慣れた顔が目の前にあった。
先ほどもこんな全く同じシチュエーションがあった気がする。
どこでだっけな、と思いながら、目の前の彼女のそばへと寄っていく。
「何してんの」
「え？ えーと………お見舞い、みたいな」
「みたいな？」
「み、ミンくんこそ、家ここら辺だっけ」
「…違うけど」
どうやら、お互いあまり探られたくないことを探り合っているらしい。
どちらも答えに戸惑いの色が見える。
そのことに彼女も気づいたのか、にっこりときれいに笑った。
＿＿ふと、それに違和感を感じた。
どこでみたかは分からないけれど、彼女の笑みはこんな大人びていただろうか。
お見舞い帰りだと言うから、何か辛いことでもあったのかもしれない。
それにしてもこんな顔だったか。
「帰り、気をつけろよ」
「ありがとね」
「……ん」
じゃ、と手を振って彼女と別れる。
「ありがとね」
彼女のその言葉で思い出した。バスで見た夢の中に、彼女が出てきたのを。
結局なにに対してのお礼だったのか聞きそこねたまま目を覚ましたのだった。
とは言っても、俺の脳が勝手に作り出した幻なのだから、
何に対しての感謝か正しい答えが返ってくるわけがない。
もっと言ってしまえば、その感謝さえも俺が作り出したものかもしれないのだ。
「…まいいか」
じめっとした感情を残しながら、こうして二度目の梅雨は終わりを迎えた。
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作者名：Y汰 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年10月27日 21時
