. ページ7
.
『うん、』
ちらりと振り向いた彼は、ふ、と口元を緩めた。
答えるまでの間と、声色と、表情と。
いつだって簡単に見破られてしまうのは、私の嘘が下手なわけではきっとない。
『そーなんだ』と弾む声に、また、やられた、と思った。
駅のホーム、『ねぇ』と空気に似た声が耳を擽る。
何駅か先に行けば主要駅のはずなのに、急行の止まらないこの最寄り駅は随分と静かだ。
『なんかさぁ』
『うん』
『今、よくない？』
『…なにが？』
『タイミング的に。雰囲気とかさ』
『なんの？』
『ほら、色々』
彷徨っていた視線が、私の沈黙を射抜く。
目が合えば流されてしまいそうになると知っていながら、逸らす事もまた出来ない。
『いろいろ』
『うん、色々。言いたいこととかさ。ないの？』
これが、彼のずるさなのだ。
分かってはいても、卑怯だとさえ思う。
けれど、嫌にはなれない。
だって私は、彼の事が。
『サークル、今度は行こうかな。…ふっかがいるなら』
少しだけ見開かれた目は、数秒見つめたあとくしゃりと緩む。
私だって、知ってる。
彼の期待した答えが何か、なんて。
だけどそれを知っていて、その上で今私はこの答えを出したのだと、それが全て伝わっていればいい。
きっと彼なら分かるはずだ。
返事に悩む彼を置いて、タイミング良く滑り込んで来た電車に乗り込む。
そのまま振り返らずに出発するのを待った。
私だって、素直じゃないんだ。
そんなずるさに乗せられてばかりは悔しい。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 715人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
バンビ(プロフ) - hs.さん» こちらこそです。hs.様のコメント、何度も読み返しています。いつも嬉しいコメントありがとうございます。完結遅くなってしまいましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。 (5月5日 23時) (
レス) id: 1d28bbaf6b (このIDを非表示/違反報告)
hs.(プロフ) - とても面白くて何度も読み返してます。バンビさんの小説の世界観に魅了されてます。 (5月5日 11時) (レス) id: 37efc71d63 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - ふかたつさん» ふかたつ様、コメントありがとうございます。亀更新で申し訳ないのですが…最後までよろしくお願いします。 (2023年3月29日 12時) (レス) id: bb1036ab13 (このIDを非表示/違反報告)
ふかたつ - 初めてのコメント失礼します🙇🏻♀️バンビさんの小説面白くて一気見してしまいました！このお話も大好きです！これからも更新頑張ってください！ (2023年3月28日 17時) (レス) @page27 id: 1a90f164f5 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - hs.さん» hs.様、コメントありがとうございます。お久しぶりです。だいぶお待たせいたしました…是非、最後までよろしくお願いします。 (2023年1月17日 21時) (レス) id: 8553dd7f55 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：バンビ
| 作成日時：2023年1月13日 21時
